今日の映画 – ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男(Darkest Hour)

Darkest Hour

映画レビュー

見応えのあるドラマ。ヒトラーがオランダ、ベルギー、そしてフランスへ侵攻した当時、イギリスの首相に就任したウインストン・チャーチルの約1ヶ月の物語。

チャーチルは1965年に90歳で亡くなっているので生きていた当時の姿は知らないが、ゲイリー・オールドマンは写真で見るチャーチルにかなり似ている。当時のチャーチルは66歳、演じるオールドマンは59歳で髪もふさふさ、肌ツヤもよく、どちらかというとほっそりした顔つきなのに映画の中では髪が後退し、がっちりした顎で見た目チャーチル。このメイクはオールドマンが映画の仕事から引退していた辻一弘に直々に依頼したそうで、アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。

映画はほとんどのシーンに登場するオールドマンの独壇場。チャーチルの話し方は知らないが、おそらく話し方やしぐさを研究して似せていると思われる。「裏切りのサーカス」では受賞を逃したが、この映画でみごとアカデミー主演男優賞を獲得した。

映画はほぼチャーチルに密着して進んでいくが、仕事場ではリリー・ジェームズ演じる新米の秘書エリザベスに口述タイプさせるシーンが多く、エリザベスの視点でチャーチルを見せているような作りが面白い。リリー・ジェームスはダウントン・アビーでチャンスを掴んで、その後順調に良い役に当たっているので今後が楽しみ。

ナチスに対して断固抗戦を主張するチャーチルに対して、ハリファックスが講和を画策したのは史実どおりらしい。チャーチルが実際に庶民の声を聞いて決断したのかどうかは分からないが、国王ジョージ6世に花を持たせつつ、チャーチルが閣外大臣と労働党の議員を掌握して保守党の講和派を退けるところの盛り上げ方がうまい。狭苦しい部屋のひな壇に議員が並ぶイギリス議会のシーンも臨場感があるし、ラストにチャーチルが立ち去っている画面も決まっている。

映画を観ていて改めて思ったのはイギリスが階層社会であること。チャーチルは下院の議員選挙で3度も落選の憂き目に会っていて映画の中でも政敵のハリファックス子爵を「無能な貴族の三男」と罵っているし、奥さんも破産寸前と騒いでいたので決して豊かではなかったよう。しかしチャーチル自身も出自は良家のお金持ちで、バスに乗ったことがないとか地下鉄の乗り方が分からないシーンなど、一般庶民とはかけ離れた階級の人だったことが分かる。さらに戦争の作戦室は女人禁制で、女性の仕事はタイピストくらい。50年前とはいえ、現在からは想像しにくい社会だった。

チャーチルの首相着任直後に起こったダンケルクの戦いとナチスドイツに包囲された40万人の陸軍将兵を脱出させるダイナモ作戦はこの映画でも重要な要素であるが、映画の中では細かなところまで説明されない。この史実はイギリス人にとっては常識なのかもしれないが、よく知らない日本人にとっては昨年公開の映画「ダンケルク」が予備知識として役に立った。

予告編

2018年に観た映画

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