映画レビュー
当時異人種間の結婚は法律で禁止されていた1,950年代のヴァージニア州で、結婚した白人のリチャード(ジョエル・エドガートン)と黒人のミルドレッド(ルース・ネッガ)が苦難の末、連邦最高裁で勝利を勝ち取るまでの話。と書いてしまうと公民権運動の活動家、体制側の権力を傘にきた圧力、自警団やKKKのような暴力組織の横暴なんかを連想してしまうが、この映画はいたって静か。事実に基づいた話なので脚色できる範囲は限られてくるのは当然としても、自制的といって良いくらい淡々としている。
一般に、映画を作る側からすると観客に受けるためにはヤマ場で盛り上げるようにしたいと考えるだろうし、見る側もある程度は予感をしながら乗れるところでノッて結果は満足という面もあると思う。そういう公式にあてはめると、人権問題、人種問題、社会問題などをテーマにする映画では、主人公の弱者が横暴な強者に徹底的に痛めつけられて、見る側がその理不尽さに感情移入した後に大逆転で歓喜で終わるというのが一番多いパターンと思う。
ところが、この映画ではKKKも出てこないし、逮捕に来る保安官は一応憎まれ役をやっているが可愛らしいもの。多少のいやがらせや不審な車がでてきたりするが、いじめや社会的制裁を加えられるようなことはない。そもそも、殴り合いとか暴力的なシーンが全くない。逆に最高裁判所での判決も、盛り上げるにはうってつけの裁判所のシーンは一切なく、結果を電話で聞くだけ。
そういう風に「おいしい」ところを敢えて使わず、余分な説明的なセリフも最小限度、過去の回想やフラッシュバックを入れずに時間順に淡々と流れていく造り。それでいて途中で飽きさせずに最後まで引っ張っていくのは、監督で脚本も自ら書いたジェフ・ニコルズがすばらしいと思う。
ルース・ネッガは知性的な役で、難しいことを考えるのが得意ではない夫に代わって頭を働かせるが夫を立てるところでは立てるとか、厳しい環境でも弱音を吐かない強さを持ちながら見かけは普通にしているとか、派手さがないだけに難しい役どころを完璧にこなしていると見た。世間では、アカデミー主演女優賞はエマ・ストーンではなくルース・ネッガにやるべきだったという声もあるのも頷ける。
しかし、個人的に一番評価したいのは 、ジョエル・エドガートン。今まで「スターウォーズ」でのルークのおじさん役とか、「華麗なるギャツビー」でギャツビー を振った女の結婚相手とか、いまいち印象に残らない役が多かったが、この映画で見直した。
役柄は、貧しく育って教育もあまり受けておらず、趣味の車のチューニング以外は仕事で黙々とブロック積みをやっているだけ。口下手でセリフが少ない上に、おおっぴらに感情表現しないので難しそうな役。そこで、あまり変えない強面の表情をちょこっと変えるだけの演技とか、ぼそぼそっと喋るセリフとか、体全体の感じがいけてる。法律で結婚が禁じられていることを言われた時の「It can’t be right.」とか、弁護士に裁判長に伝えてほしいことがあるかと聞かれて言う「I love my wife」とか泣かせるやん。
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