今日の映画 – チャッピー(Chappie)

南アフリカ出身のニール・ブロムカンプ監督の3作目。映画の舞台は「第9地区」と同じく南アフリカのヨハネスブルグ。この都市にはびこるギャング対策に警官ロボットが導入されるというところから映画は始まる。

Chappie

このスカウトと呼ばれる大量生産の警官ロボットは一応AIで自律的に動くが感情などは持ち合わせていないもの。兵器メーカでスカウトを開発したエンジニアを「スラムドッグ・ミリオネア」のデーヴ・パテールが好演。個人のミッドナイト・プロジェクトで完全なAIソフトを開発して、テストのために故障してスクラップ予定のスカウトへインストールする。これが主人公のチャッピーになる。

AI物の映画と言えば「アイ、ロボット」、ロボット警官なら「ロボコップ」が連想されるが、映画の出来栄えとしては「チャッピー」の方が数段良い。知性を持ったモノを創造するという点ではフランケンシュタインにも通じるところがあるが、この映画を哲学的で重い映画にしていないのは、3人組のギャング、ニンジャ、ヨランディ、アメリカの適度にコミカルでかつブチ切れている存在が大きい。

特に、ニンジャとヨランディは南アフリカのディー・アントヴァルトという人気バンドのメンバーで私生活では夫婦。映画の役名はバンドでの名前のままで出演して映画の中の音楽も担当している。このバンドはレディ・ガガの南アフリカツアーでの前座を依頼された時に、クールじゃないからという理由で断って、逆にレディ・ガガをパロディにしたミュージック・ビデオを作ったという強者。このビデオ「Fatty Boom Boom」はYouTubeで見ることができる。

映画の中ではニンジャはかなりアブナイ刺青だらけのギャング役。チャッピーを悪事に引きこもうとするが最後に男気を見せる。ヨランディは頭の悪いギャング役で登場するが、チャッピーが創造されると急に母性を発揮して良い人になってしまう。映画のポスターでは小さな字でしか名前が出てこないが、2人とも主演クラスの存在感あり。

主演のチャッピー役のシャールト・コプリーはこの監督の3作全てに主演しているが、今回は声とモーションキャプチャだけで素顔は見せない。チャッピーの画像はシャールト・コプリーの動作でCGを作ったものと思われるが、非常に良く出来ている。モーションキャプチャなので、動きは人間そのままなのは当然としても、スカウトがメカ部分が露出しているヒューマノイド・ロボットで各関節やそれを動かすメカ、表情を表すための耳や顔の前のバーなど動かす部分が多いが自然に見える。

シガニー・ウィーバーはいかにもゲストという感じのちょい役。「エイリアン」の新作をニール・ブロムカンプが監督することに決まっているのでその関係での出演か?

ヒュー・ジャックマンの役は、彼でなくても良かったかもしれないが、警察用ロボットに日本のアニメを連想する巨大な装甲ロボットを開発して、クラスター爆弾まで組み込み、それを捜査して興奮するマッド・エンジニアを演じて悪くない。

映画には円筒形で中空の高層ビルが出てきて調べてみると実在する54階建のアパートビルやった。ビルの上部の広告が「Vodacom」となっていたが、これはVodaafonの南アフリカでの会社名らしい。

また、SONYブランドのノートPCが映画の中で使われているが、それ以外にもチャッピーが意識の転送に挑戦する際の計算プロセッサーにPlayStation 4が複数台使われている。今更PlayStationでもないと思うけど、映画の配給がSONYグループのコロンビアということの関係かもしれない。

なお、日本での配給に際して、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントはPG12で公開するために「監督の賛同を得た上で」編集を加えたと公表している。ところが、ニール・ブロムカンプはそれに対して、「何も知らない」ということを言っているらしいので、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが勝手に編集したのではないかという疑念があるらしい。

映画を観た限りでは、ヒュー・ジャックマンが操作するロボットが暴れる場面での残虐シーンを編集したのではないかと思うが、そういう話を聞くとオリジナルがどうだったのか見てみたくなるのが人の常。たぶん、PG12にして、敷居を下げることで興行成績を上げたかったのだろうが、その割には、プロモーションに力を入れているようには見えないので、安易な方向へ走っただけのように思えてしまう。

あと、突っ込みどころとしては、チャッピーの成長とともに育ったロボットの意識はデータじゃないので他のロボットへ転送できないとデーヴ・パテールに言わせていたのに、チャッピーが脳はを読み取る装置を使って簡単に転送する方法を見つけてしまうこと。そもそもロボットの頭に装置を被せて脳波を読み取るのは無理やと思うけど。さらに、データじゃないはずの意識がUSBメモリに保存できていたりして・・・

そういう突っ込みどころは置いといて、映画のストーリーは斬新で、キャスティングも良い。ニンジャの小物に手裏剣などがあったり、ロボットの絵作りなど細かなところで日本のコミックの影響を受けているのかなと思った。


Trailer


2015年に観た映画一覧

番号 邦題 原題 監督 評価
26 チャッピー Chappie Neill Blomkamp 4.5
25 イタリアは呼んでいる The Trip to Italy Michael Winterbottom 4.0
24 マジック・イン・ムーンライト Magic in the Moonlight Woody Allen 4.5
23 セッション Whiplash Damien Chazelle 4.0
22 リトル・ダンサー Billy Elliot Stephen Daldry 3.5
21 パレードへようこそ Pride Matthew Warchus 3.5
20 ディオールと私 Dior and I Frederic Tcheng 3.0
19 JIMI: 栄光への軌跡 Jimi: All Is by My Side John Ridley 4.0
18 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance) Alejandro Gonzalez Inarritu 4.0
17 インド・オブ・ザ・デッド Go Goa Gone Raj Nidimoru, Krishna D.K. 3.5
16 女神は二度微笑む Kahaani Sujoy Ghosh 4.0
15 パリよ、永遠に Diplomatie Volker Schlondorff 3.0
14 博士と彼女のセオリー The Theory of Everything James Marsh 3.5
13 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game Morten Tyldum 4.5
12 妻への家路 帰来 張芸謀 4.0
11 シェフ 三ツ星フードトラック始めました Chef Jon Favreau 3.5
10 フォックスキャッチャー Foxcatcher Bennett Miller 3.5
9 アメリカン・スナイパー American Sniper Clint Eastwood 4.0
8 おみおくりの作法 Still Life Uberto Pasolini 3.0
7 エクソダス 神と王 Exodus: Gods and Kings Ridley Scott 3.5
6 ドラフト・デイ Draft Day Ivan Reitman 2.5
5 今日の映画 – 特捜部Q 檻の中の女 Kvinden i buret Mikkel Norgaard 3.0
4 KANO 1931海の向こうの甲子園 KANO 馬志翔 3.5
3 ジミー、野をかける伝説 Jimmy’s Hall Ken Loach 3.5
2 シン・シティ 復讐の女神 Sin City: A Dame to Kill For Robert Rodriguez, Frank Miller 3.5
1 毛皮のヴィーナス Venus in Fur Roman Polanski 4.0
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