映画レビュー
主人公は15歳の少年チャーリー。演じているチャーリー・プラマーはこの映画以外は「ゲティ家の身代金」で誘拐される孫の役だけの無名といってもよい俳優だが、なかなか良い。この映画でベネチア国際映画祭の新人賞を獲得している。邦題は「荒野にて」だが、荒野をチャーリーと馬のピートが歩くシーンは映画の一部に過ぎないし、原題「Lean on Pete」は競走馬の名前だが、馬が出てくるのも映画の半分くらい。映画を通して出演しているのは、ほぼ全てのシーンに登場するチャーリー一人。タイトルはともかく、この映画はチャーリーの映画。
前半はポートランドで馬のオーナーのデルや女騎手のボニーと出会って彼らが映画を通しての主要人物かと思ったら途中から出なくなる。責任感のまるで無い父親も死んでしまう。後半はポートランドからワイオミングのララミーへの移動になるロードムービーになるが、登場人物が交代に現れては消えていくという点では映画全体がロードムービーの造りになっている。ここでチャーリーが出会う先の2人や、一軒家でビデオゲームにハマっている2人や、トレーラーハウスで暮らすカップルとか、アメリカ社会の底辺に近いところで暮らす人達の描写が良い。
チャーリーはほとんど現金を持たずに馬のピートと逃避行を始めるが、途中で万引きしたり、ガソリンを盗んだり、無銭飲食をしたりするが、バイト仕事では真面目に働いて雇い主に認められるように根っからの不良でないところが救い。まあ、その前に馬とトレーラーを盗んでいるが。映画はチャーリーの行動を見せることでチャーリーがどいういう少年かということを見せていく。それに加えて彼がピートと荒野を歩くシーンで、父親や学校の思い出を馬に話しかけさせることで内面を描いているのは上手い。
最後は浮浪者同然になって気をもませるが、ワイオミングの伯母さんと無事再会できてとりあえずはハッピーエンド。施設に送られるのを避けるために独力で連絡先が分からない伯母さんを僅かな記憶から見つけて訪ねていくのは大したもんやけど、警察に伯母さんを探してもらったほうが楽やったんちゃうかな。
観終わって振り返ってみると、この映画は「孤独」なチャーリーが誰かとの「繋がり」を求めていく物語。母親に捨てられ、学校に行かなくなって無責任な父親が唯一の繋がりというところから始まり、デル、ボニー、ゲームおたく、トレーラーハウスカップルのいずれよりも馬のピートの方が良かったということ。そのピートを失って絶望的な状況になりながら、なんとか頑張って伯母さんのところで将来の希望が見えてきたという組み立ては悪くない。なんとなく、別の方法があったのではないかと思わなくはないけど、それだけピートへの思い入れが強かったということやねんやろね。
予告編
2019年に観た映画
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