今日の映画 – 魂のゆくえ(First Reformed)

First Reformed

映画レビュー

映画の冒頭は、寒々とした風景の中、遠くに見える小さな教会にカメラが寄っていく。教会の中ではトラー牧師(イーサン・ホーク)が日記を書いていて、独白で「1年間日記を書き続けようという決意」、「日記をデジタルではなく手書きすることの意味」などが語られるが、「1年間書き続けたあと全てを廃棄する」というところで何か尋常ではないと悟らされる。

原題の「First Reformed」はこの小さな教会の名前で、元々はオランダ人の手によって建てられ、間もなく250年の記念式典が予定されていること、トラーはかつて従軍牧師をやっていて、一人息子をイラク戦争に行かせて戦死させたことから妻と別れ、参っていたところを「Abandoned Life」という教団に拾われてFirst Reformedの牧師の職を得たことが映画を観ていくにつれ分かっていく。この話の展開が説明ぽくなく、ごく自然なのは監督で脚本も手がけているポール・シュレイダーの上手いところ。

さらに信者のメアリー(アマンダ・セイフライド)がトラーに夫のことで助けを求めに来たことで、環境保護活動家で地球の将来に絶望した夫マイケルに救いの手を差し伸べようとするがマイケルは自殺してしまう。トラーとマイケルとの会話だけでなく、協会関係者との会話でも聖書からの引用やキリスト教の教義に関わるような台詞が多く、キリスト教のバックグラウンドを持たない身としては微妙なニュアンスが正直よく分からないのが残念なところ。

聖書(だけでなく、大抵の宗教の経典も同じだと思うが)引用する箇所によっては全く正反対のことを言っていることがよくあるように思う。適切な箇所を適切に使うことで聖職者は信者を助けることもできるが、本来と違った使い方をすれば金満教団や寄付をしている企業が裏では環境破壊を行っていることを正当化してしまったりする。最初はAbandoned Lifeが自分を救ってくれたと感謝していたトラーが、マイケルの自殺を機に教団の実態を知り、さらに自分の胃がんが進んでいることを自覚することで、マイケルの意思を受け継いで過激な考えを持つようになる。

イーサン・ホークは抑え気味の演技でうちに秘めた迷いを表に出さず淡々としているかと思うと、気遣ってくれる同僚に突き放すような厳しい言葉を投げつけるところなどかなりいい感じ。過去に観た映画でイーサン・ホークは良い俳優という印象はあっても、これが代表作と言えるだけの役に巡り合っていなかった感があるが、やっと来たかという感じ。

監督のポール・シュレイダーは元々は脚本家で後に監督もするようになった人。脚本家としては、「タクシー・ドライバー」、「ローリング・サンダー」、「レイジング・ブル」などの名作に関わっているが、それに比べると自身が監督した作品は今一歩。だが、この映画では脚本を書き上げる際にイメージしたというイーサン・ホークを主演に迎えて出色の出来栄え。映像も色味を抑えてベルイマンの映画を連想させる。もう72歳なので、ポール・シュレイダーにとってもこの映画が代表作となるのではないだろうか。

予告編

2019年に観た映画

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