映画レビュー
つい最近観たばかりの「ビニー 信じる男」と同じくボクシングの映画。この映画の主人公は「石の拳」と呼ばれたパナマ人ボクサー、ロベルト・デュラン。ボクシング映画の例に漏れず、この映画も、努力して成功を掴み、挫折、そして再起というストーリー。
ロベルト・デュラン役は「ゼロ・ダーク・サーティ」でCIAの特殊部隊の一人をやっていたらしいが、無名の俳優。「ビニー 信じる男」でも思ったが、普通の俳優がボクサー役でリングに立ってそれらしい動きを演ってしまうのは俳優の層の厚さか? 日本では考えられない。
主人公がパナマ人なので、少年時代を過ごしたスラム街やパナマ運河の返還にまつわるニュースなどローカル色の強い時代背景を見せつつ、チャンピオンになって国民的英雄に上り詰め、転落すると皆から責められるところをうまく見せている。
無敗の王者、シュガー・レイ・レナードに挑戦してタイトルを奪取するところを映画のクライマックスに持ってくるのではなく、この試合と半年後のリターン・マッチでチャンピオン・ベルトを取り返されるところを真ん中に置いて、その後の再起でラストに繋げていく構成もよく考えられている。
特に、シュガー・レイ・レナードとの2回の戦いは、なんとなく勝った負けたではなく、前哨戦での心理戦が勝敗を左右したという筋書きにしているところに工夫が観られる。ボクシングの試合のシーンも、細かなカットを繋ぎ合わせて躍動感を見せ、随所に過去のフラッシュバックを混ぜるところもなかなか良い。素人ボクサーのボロ隠しかもしれないが・・・
名トレーナー、レイ・アーセル役のロバート・デ・ニーロは余裕の影技。シュガー・レイ・レナード役のアッシャーはちょっとニヤニヤしすぎ。ただ、彼も本職はミュージシャン。実話に基づく映画なので、レイ・チャールズのそっくりさんやドン・キングのそっくりさんが出てくるのもお楽しみ。
ちなみに、「ビニー 信じる男」では、ロベルト・デュランはビニー・パジェンサに敗れてタイトルを失ってしまうが、これは1994年の話。シュガー・レイ・レナードとの対戦から14年後のことなので、ボクサー人生の最晩年だったころ。生涯の対戦記録は、119戦、103勝(70KO勝)、16敗。ビニー・パジェンサ(60戦、50勝(30KO勝)、10敗)、シュガー・レイ・レナード(40戦、36勝(26KO勝)、3敗、1分)と比べても総試合数が圧倒的に多く、KO率が高いのは「石の拳」の面目躍如。
あと、「ビニー 信じる男」の製作総指揮にはマーティン・スコセッシが名を連ねている。そして、この映画にはロバート・デ・ニーロが出演。1980年製作の「レイジング・ブル」の監督と主演俳優が、このタイミングで別々のボクシング映画に携わっているのも興味深い。
予告編
2017年に観た映画
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