ナチスの収容所でのユダヤ人虐殺を扱ったいわゆるホロコースト物。
映画館で予告編などを見て、いよいよ本編開始というときに、スクリーン両脇のカーテンが外向きに動いてスクリーンの縦横比をワイドにすることはよくある。この映画では、カーテンが逆に内側へと動いてスクリーンの縦横比は3:2くらいの最近では見ないクラッシックな画面になる。
そして映画が始まるとさらに度肝を抜かれるのがカメラ。被写界深度の極端に浅いレンズを使って、画面の中央のもの(映画の大半の時間は主人公であるサウルの顔)にフォーカスを合わせているので、全景や背景がボケて鮮明に見えない。さらに手持ちで撮影しているのか、動いているところはかなりブレる。この奇妙なカメラワークのおかげで、室内・屋外に関わらず不思議な閉塞感がつきまとう独特のタッチを造っている。また、かなり残虐な背景がボカされて見る人へのショックを和らげている面もある。
主人公のサウルはユダヤ人ではあるが、収容所で選ばれてナチスの手先となって収容者をガス室へ誘導したり、そのあとの清掃や片付けを行う「ゾンダー・コマンド」の一員。なので、監視されていて自由ではないものの、多少は収容所内で動き回ることができる。そのサウルが目の前で殺された自分の息子をユダヤ教の教義に則って埋葬しようとする一連の行動と収容所内のユダヤ人の脱走計画とが絡みながら話は進んでいく。
サウルにとっては息子の埋葬が至上命題で、そのためには自分自身の命を危険に晒すだけでなく、収容所内の同胞への迷惑も顧みなくなってくる。というわけで、観ていても「死んだもんより生きてるもんのほうが大事やろ」とサウル感情移入できないだけでなくイライラさせられる。
しかし、よくよく考えてみると、死んだ少年がほんとうにサウルの息子だったのかという疑念が湧いてくる。ゾンダー・コマンドとして仕事をしているところに、息子が処理されるユダヤ人として送り込まれてくる可能性は無いとは言えないが、サウルの狂気が息子に似た少年を息子と思い込ませておかしな行動に走らせたと考えるほうが自然といえる。そうするとサウルの行動も、この映画で描かれる大量殺戮される側の人間が大量殺戮に手を貸さざるを得ないという異常な環境での恐怖と狂気の一面として捉えるということでなんとなく納得。
Trailer
2016年に観た映画
番号 | 邦題 | 原題 | 監督 | 評価 |
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8 | サウルの息子 | Saul fia | Laszlo Nemes | 3.5 |
7 | ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります | 5 Flights Up | Richard Loncraine | 3.0 |
6 | 独裁者と小さな孫 | The President | Mohsen Makhmalbaf | 4.5 |
5 | ブラック・スキャンダル | Black Mass | Scott Cooper | 4.0 |
4 | 消えた声が、その名を呼ぶ | The Cut | Fatih Akin | 4.0 |
3 | 完全なるチェックメイト | Pawn Sacrifice | Edward Zwick | 4.0 |
2 | ブリッジ・オブ・スパイ | Bridge of Spies | Steven Spielberg | 4.5 |
1 | スター・ウォーズ/フォースの覚醒 | The Force Awakens | J.J. Abrams | 4.8 |