今日の映画 – レッキング・クルー~伝説のミュージシャンたち~(The Wrecking Crew!)

60~70年代のアメリカのヒットソングを裏で支えたスタジオ・ミュージシャンのグループ「レッキング・クルー」のドキュメンタリー映画。

The Wrecking Crew!

監督はレッキング・クルーのギタリスト、トミー・テデスコ(故人)の息子デニー・テデスコ。

「スタジオ・ミュージシャン」のウィキペディアでの説明は、

スタジオ・ミュージシャンは、ポピュラー音楽において、音楽スタジオでのレコード、CDなどの作成や、コーディネートされたステージサポートのため、楽器演奏を行うミュージシャンのこと。レコーディング・ミュージシャン、セッション・ミュージシャンともいう。

レッキング・クルーはそのスタジオ・ミュージシャンの集団で、しかもそれぞれの楽器の演奏が相当な腕前だったという。レコーディングに関わった曲のリストをみても、

  • 心の届かぬラヴ・レター(エルヴィス・プレスリー)
  • ビー・マイ・ベイビー(ロネッツ)
  • ミスター・タンブリンマン(バーズ)
  • 夜のストレンジャー(フランク・シナトラ)
  • 恋の終列車(モンキーズ)
  • 夢のカリフォルニア(ママス&パパス)
  • グッド・ヴァイブレーション(ビーチ・ボーイズ)
  • 明日に架ける橋(サイモン&ガーファンクル)

とそうそうたる曲目が並ぶ。こういった曲のスタジオでの録音の際に、演奏の一部あるいはかなりの部分がレッキング・クルーのメンバーによって行われたのだが、レコードのクレジットに彼らの名前は無い。

おそらく、当時およびそれ以前は、スターは歌を歌う人で楽器の演奏はその伴奏程度にしか見られていなかったのかもしれない。自分で楽器を演奏しないシナトラやロネッツが歌う曲の演奏を誰が演っているかなど、ファンにとってみればどうでもよいことだったと思う。この時代にはたぶん多くのスタジオ・ミュージシャンが裏方として活躍して、その中でのトップクラスがレッキング・クルーだったということか。

ところが、アーティストが歌うだけでなく、自身で楽器を演奏するようになってくると話は微妙になってくる。エルヴィス・プレスリーやサイモン&ガーファンクルみたいに、ギター1本しかない場合は、それ以外の楽器は誰かによって演奏されているのは明らかなので聴く側もなっとくずくで聴いているはず。

しかし、ビーチ・ボーイズやモンキーズのようにグループメンバーで一通りの演奏ができる場合でも、その演奏の質の理由でレコーディングの際には本人たちに代わってスタジオ・ミュージシャンが演奏していたということになる。ファンはツアーや映像でお気に入りのグループが演奏しているのを見て、レコードに録音されている音も彼らが出したと思い込んでいたという訳。

特に、ビーチ・ボーイズの場合は、天才ブライアン・ウイルソンが作る曲が難しく、かつ彼が求める演奏レベルが高すぎたのでメンバーでは演奏できず、レッキング・クルーの演奏力を借りて初めてブライアンの作りたい曲が実現できたというところは、 映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディ」と重なってくる。「ラブ&マーシー終わらないメロディ」にもレッキング・クルーのメンバーが出演していてこの映画とはブライアンを軸として反対側から見たものとして興味深い。両方の映画でレッキング・クルーのメンバーがブライアン・ウイルソンのことを真の天才と言っていたのはお世辞ではないだろう。

ブライアン・ウィルソンとは逆のケースで、録音しようとしているのに楽譜ができていなくて、コード進行だけを書かれた紙を渡されて、それだけを元に曲を作って演奏してしまうというようなこともあったようで、並の演奏家ではなかったということが分かる。 そういう実力を認められていたので、裏方ではあったが、最盛期は引く手あまたで金銭的には相当良い思いをしたらしいのはなにより。

しかし、世の中の潮流はアーティスト自身が演奏するのが主流になり、バックバンドに優秀な演奏者を揃えてグループを作るのが当たり前になってくるとスタジオ・ミュージシャンの役割はだんだんと無くなっていくというところで映画は終わりとなる。 時代が違えば、表舞台に立ってプレイヤーとして名を残すことができた人たちだったが、そういう時代が来た時には少々年を取り過ぎていて世代交代される側になっていたということか。

映画は2008年に制作されていたが、映画の中で使われる膨大な曲の著作権料を払えないため各地の映画祭などで公開されるのみで劇場公開ができなかった。2013年10月に、クラウド・ファンディングを利用して資金調達を行い、同年12月にUS$313,158を集めて劇場公開とDVD制作販売を行うことができた。この経緯は“The Wrecking Crew” The Untold Story of Rock & Roll Heroes 参照。


Trailer


2016年に観た映画

番号 邦題 原題 監督 評価
14 レッキング・クルー 〜伝説のミュージシャンたち〜 The Wrecking Crew Denny Tedesco 4.0
13 リリーのすべて The Danish Girl Tom Hooper 4.5
12 SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁 Sharlock: The Abominable Bride Douglas Mackinnon 2.5
11 ヘイトフル・エイト The Hateful Eight Quentin Tarantino 4.5
10 マネー・ショート 華麗なる大逆転 The Big Short Adam McKay 4.0
9 キャロル Carol Todd Haynes 4.5
8 サウルの息子 Saul fia Laszlo Nemes 3.5
7 ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります 5 Flights Up Richard Loncraine 3.0
6 独裁者と小さな孫 The President Mohsen Makhmalbaf 4.5
5 ブラック・スキャンダル Black Mass Scott Cooper 4.0
4 消えた声が、その名を呼ぶ The Cut Fatih Akin 4.0
3 完全なるチェックメイト Pawn Sacrifice Edward Zwick 4.0
2 ブリッジ・オブ・スパイ Bridge of Spies Steven Spielberg 4.5
1 スター・ウォーズ/フォースの覚醒 The Force Awakens J.J. Abrams 4.8
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