今日の映画 – エジソンズ・ゲーム(The Current War : Director’s Cut)

The Current War

映画レビュー

18世紀末のアメリカでろうそくや蒸気機関に変わる「電気」事業の泰明期を題材にした映画。主要な3人の登場人物、トーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)、ジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)、ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)のうち、日本でも誰もが知っているのはエジソン。この映画で描かれている時代ではすでに電球の実用化の成功など実績を上げていて知名度が高く人気があるが、ちょっと変人でお金が無い。カンバーバッチは「イミテーション・ゲーム」のチューリングのような天才肌の変わった人を演るのはお手の物。

ウェスティングハウスは映画にも出てくるジェネラル・エレクトリック(GE)のライバル会社となるウェスティングハウス・エレクトリックを作った人。個人のことは知らなくても会社の名前を聞いたことはあるのではないだろうか。ウェスティングハウス・エレクトリックはすでに存在しないが、その原子力部門はウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーとしてイギリスに売却され、それを2006年に買収したのが東芝。これは東芝にとって悪い選択で、この買収がその後の東芝の凋落の一因となった。

映画でのジョージ・ウェスティングハウスは発明家というよりも事業家。人間的に問題のあるエジソンとの対比で人格者として描かれている。マイケル・シャノンは派手さはないがどっしり構えた重厚な感じは悪くない。映画製作当初のキャスティングではジェイク・ギレンホールに声を掛けたらしいが、ギレンホールでは胡散臭さで失敗したと思う。日本語のタイトルはエジソンに肩入れしているが、原題は元々ニュートラルでエジソンとウェスティングハウスは取り扱いとしては一応同等となっている。脚本次第では、ウェスティングハウスを主役にしてエジソンを添え物でも成り立つように思えるくらい重要な人物。

3人めのニコラ・テスラは電磁気学を学んだ人なら磁力の単位「テスラ」に名を残していることを知っているが、大半の人にとってはアメリカの新興の電気自動車会社テスラを連想するだろう。この社名はニコラ・テスラへの敬意とオマージュから付けられたもの。奇しくも、2020年6月にテスラの時価総額がトヨタを抜いて自動車業界で最大となったというニュースが報道されていた。

エジソンは天才発明家として描かれているが、たぶん彼は市場ニーズに答えるには何が必要かという着想力とそれを実用化する方向性を見出す能が凄かったのかなと思う。一方で研究開発は馬力でやるタイプだったのかも。それに比べてテスラは科学者として天才だったように描かれている。セルビア人の移民でお金もないが交流モーターの仕組みを考えて頭の中では回ると確信しているが、そのモーターを実際に作るにはウェスティングハウスのような人の助けがないとできない人。電力事業に大いなる貢献をして実績を残しているのに、人とうまくやっていけずに晩年は一文無しで亡くなったというからニコラ・テスラ主役でも映画を作れそうなくらい興味深い人物。

原題の「The Current War」は「電流戦争」。電力システムについて、直流を押すエジソンと交流で巻き返しを図るウェスティングハウスとテスラの戦い。これに死刑執行のための電気椅子の話などが絡んでくる。戦争の結果は送配電に有利だがモーターを持たない交流組がテスラの交流モーターの発明などで勝つのだが、電気工学とその歴史を知らない人には分かりにくかったのではないかと思う。

また、エジソンは交流は危険だという批判を繰り返すが、「戦争」が終わるまでには直流システムの不利を認めざるを得ない時があったはずで、その時には既に後戻りできないことでの葛藤のようなものが描かれなかったのはがっかり。シカゴ万博の会場でエジソンとウェスティングハウスが互いにファーストネームで呼び合うだけのオチではなぁ。

あと、劇場公開当初から、タイトルに「Director’s Cut」とあるのは変だなと思ったが、ウィキペディアの記事によると、当初製作者として名を連ねていたハーヴェイ・ワインスタインがゴメス=レホン監督の仕事に介入して変更させたバージョンがあり、そのバージョーン(ワインスタイン・カット)の事前評価は低かった。その後、ワインスタインがセクハラ問題などで失脚し、ゴメス=レホンが撮り直して作ったのが劇場公開されたディレクターズ・カットという訳。この作り直しについては、製作総指揮のマーティン・スコセッシが支援したそうな。

映画の中でウェスティングハウスが「エジソンが自分の発明品にすべてエジソンの名前を付けるのは自分の名前が忘れられることを恐れているからだ」ということを言うくだりがある。映画と関係ないが、われわれの身の回りにあるもので「エジソン」の名前が残っているのは、電球の口金のネジ。日本語では「エジソンねじ」、英語では「Edison Screw」。映画の中で、万博会場でウェスティングハウスの作業者が設備に電球をセットしていくシーンがあるがあきらかにねじ込んでいない。おそらくエジソンの特許に触れないように別の方式を使っていると思われるが、電球に関しては「戦争」で負けたエジソンのネジが今でも使われているというのは感慨深い。

予告編

 

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