今日の映画 – 葡萄畑に帰ろう(The Chair)

The Chair

レビュー

日本ではなじみのないジョージアの映画。最近「おかえり、ブルゴーニュへ」という映画を観たばかりで、なんとなく同じような田園地帯を舞台にした映画なのかなと想像して映画館へ行ったが全く違った。よくよく見ると英語のタイトルは「Chair」。この邦題は良くない。日本版のポスターも思わせぶりで誤解を招く、というか誤解させようという意図が見え見え。

かなり風変わりな映画で、コメディなのだがリアリティのある部分とナンセンスな部分とが入り混じって不思議な雰囲気を醸し出している。タイトルにあるように「椅子」が冒頭から出てくるが、この椅子が話したり、勝手に動いたり、主人公を乗せて公道を走ったりするのが荒唐無稽な部分の代表格。それ以外にも主人公のギオルギが「国内避難民追い出し省」という役所の大臣だったり、そこで働く職員がローラースケートを履いていたりとか、シュールな場面が盛り込まれている。

一方で、上昇志向の強すぎる補佐官とか、汚職が当たり前になっている政治家とか、主人を裏切って密告する使用人とか、ジョージアの現状を風刺しているのかと思わせられるシーンもいろいろある。与党が選挙で負けて大臣をクビになるギオルギ自身は「賄賂を要求したことはなかったが、くれるものは拒まなかった」というくらいなので、比較的ましな方だったかもしれないが、不正は行っていたということ。住んでいた豪華な自宅は首相の口利きで格安で手に入れたものだし、輸入品の「椅子」も公費で購入したもの。大臣を辞める際に、後任の大臣がゲオルギにその椅子を持っていくように勧めるところでも公私混同が普通になっていることを暗示している。

ゲオルギが「椅子」を手に入れた際に古い椅子を補佐官にお下がりとして与えたり、後任の大臣がゲオルギの椅子を欲しがらないところなど、自分の「椅子」を持つことが権力の象徴のように使わてている。ラストシーンは、大臣を退いて母親のもとへ家族ぐるみで移って5年後、かつての補佐官が首相になったことを知ったゲオルギが、保管していた「椅子」を崖から落としてバラバラにするところ。ということは、引退したあとでも過去の大臣の職に未練を持ち続けていたということか? よく分からないところもあるが、不思議な映画。

予告編

2018年に観た映画

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