今日の映画 – 十年(Ten Years)

十年のポスター

映画レビュー

香港の30代の若手監督5人によるオムニバス映画。2015年の作品で10年後の2015年を描いている。元もとはインディーズとして封切られたが、評判に成って香港中で大ヒットした。  日本でも大々的に宣伝されていないし、上映館も新宿のインディーズ系の名画座だったにも関わらず、観客の入りは良かった。

映画を構成するのは、「浮瓜」、「冬蟬」、「方言」、「自焚者」、「本地蛋」の5編。

最初の「浮瓜」はモノクロ映像。国家安全法を制定したい権力者が社会不安を煽るために政治家暗殺事件を企てるのと、それに利用されるチンピラ2人との対比で話が進み、結局は踊らされた2人が射殺されて終わりという結末。ストーリは単純だが、リアリティを追求するのではなく、わざと外したような撮り方でシリアスでもコミカルでもないのに妙に印象に残る。

2作目の「冬蟬」は全てのものを標本として残す作業をする男女を描いていて、前衛的で難解。殺風景な部屋の窓から見える外の景色(といっても向かいの建物だけやけど)が切り取られた絵のようで映像も凝っている。ただし、よう分からん。男が自ら標本となることを選び、女も髪を切るのは、絶滅危惧種の「香港人」を標本にしようということかな。

「方言」では2025年には、タクシーの運転手は「普通語(北京語)」のテストに受からないと空港などで客を乗せられないという社会になっている。主人公の運転手は普通語の教師に習っても全くだめで、タクシーには「普通語できません」のシールを貼らされ、カーナビに片言の普通語で話しかけても受け付けてもらえない。香港ではおそらく9割以上の人が広東語を喋っているはずなので、この自虐的なところは地元で受けたに違いない。作りはコメディだが、テーマは重い。時の権力者から日本語、その後は北京語を押し付けられた台湾の人たちのことを連想してしまった。

「自焚者」は、香港独立運動の学生風リーダーが逮捕され、ハンストで亡くなる事件と、それに呼応するかのように英国領事館前で行われた焼身自殺をドキュメンタリー調で撮った短編。ここまでの3編が比較的婉曲な表現だったのに対して、これはかなりストレート。3人の有識者へのインタビュー仕立てで、温度差はあるがかなり辛辣なコメントを喋らせる。ハンストしたリーダーのセリフからは、イギリスから中国への返還時の「50年間は外交と国防以外での高度な自治を認める」という約束を守らない中国だけでなく、その中国を放置しているイギリスへのいらだちをも感じる。

「本地蛋」

政府の圧力で「本地蛋=地元産のたまご」の生産農家が次々と廃業させられて、主人公の商店でも「本地蛋」を仕入れられなくなってしまう。並行して、子供たちが紅衛兵を連想させる制服集団となって、商品や表示の検閲を行っていて、主人公の息子もその活動に参加させられている。この息子、まんがばかり読んでいて、親の話をまともに聞いていない困った子供のようではあるが、実は紅衛兵検閲隊の行動予定を禁書を扱う古本屋に裏で流していたりするしっかりもの。「本地蛋」と同じく絶滅させられそうな「香港人」の中に、こういう子供が居るという希望を見せて映画は終わる。

一部コミカルな場面もあるが、前編を通して暗めで重い。ラストに表示される「Already too late」がフェイドアウトして「Not too late」に変わる。このような映画をまだ作ることができて、上映することもできる香港が「Not too late」であって欲しい。

予告編

2017年に観た映画

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