今日の映画 – 人生タクシー(Taxi)

「人生タクシー」のポスター

映画レビュー

イランのジャファル・パナヒ監督の映画。監督自らタクシーを運転して、車載カメラで車内の乗客と社外の風景を撮っていく。イランではタクシーは相乗りが普通のようで、途中で追加の客を乗せたりするので乗客同士の会話や議論がカメラに収められる。乗客は死刑について議論を戦わせる学校の先生と職業不明の怪しい男、交通事故で怪我をして遺言の動画を録画する男とその妻、金魚鉢を持って訳の分からない妄想に取り憑かれたような2人の老人、海賊版DVDのセールスマン、政府の弾圧を受けた同志のような弁護士の女性、監督の(?)姪という女の子などなど。

最初はドキュメンタリーなのかと思いながら観ていたが、カメラのアングルの切り替わりが複数のカメラを使っているようで、しかもカットに無駄がなく話がつながっていく。どうやらドキュメンタリーを装ってはいるが、綿密なシナリオにしたがって撮影した映画とみた。交通事故の夫婦の出現や、知り合いの弁護士を偶然見つけるなど、ドキュメンタリーにしては都合良すぎるというのもある。

この監督は反体制運動を理由に20年間の映画製作禁止処分になっているというから、「映画」を監督しているのではなく「ドキュメンタリー」を撮影している振りをしているということらしい。映画の最後にイラン国内での上映許可を申請したが認められなかったというキャプションが入る。おそらく上映不許可は織り込み済みで、動画データは国外へ持ち出されて2015年のベルリン国際映画祭で「金熊賞」と「国際映画批評家連盟賞」を受賞し、日本でも劇場公開されて観ることができる。

そういう背景を知ってしまうと辛辣な体制批判の映画かと思ってしまうが、ところがどっこい映画の内容は極めて普通の感じ。姪が学校で映画製作する際にイスラムの戒律による面倒くさい制約について愚痴るところとか、死刑談義の中でイランが中国に次いで死刑執行の多い国であるとか、チクリチクリ批判が織り込まれているが、主演俳優であり運転手でもある監督がいつもニコニコ、のほほんとしている雰囲気にまぎれてしまっている。この監督の表情を見ると、イランという国独特の制約を苦にするのではなく楽しんでいるかのように見えてくる。

タクシー車内の空間という限られたスペースを舞台に、客(=俳優)が入れ替わり立ち替わり話が紡がれているというのは斬新。ついでに、簡単には旅行に行けそうにないイランのテヘランの一部にせよ町の景色を見ることができるというおまけ付き。できたら、観光名所を回ってくれたらもっとよかったのに。

予告編

2017年に観た映画

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