今日の映画 – ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー (Harold and Lillian: A Hollywood Love Story)

Harold and Lillian

映画レビュー

ハリウッドで半世紀にわたって裏方の実力者として数々の映画製作に貢献した夫婦のドキュメンタリー。古いアメリカ映画が好きとか映画製作の舞台裏に興味がある人にとっては面白い映画、そうでない人にとっては最後まで観るのはしんどいかもしれない。

映画製作の役割分担はハリウッドとヨーロッパでは違うが、普通は原作があって、脚本家が脚本を書き下ろす。その脚本に基いて、監督がスタッフを従えて映画を撮る。この際に、脚本という文字で書かれた台本から映像に変換するというプロセスが必要になるが、このプロセスがどのように行われているのかを分かりやすく解説しているものはなかったと思う。

なので、一般人は監督が頭のなかにあるアイデアをスタッフに指示して映像化しているのかなと思うし、そうは言っても撮影監督(Director of Photography)というのも居るし、美術監督(Art Director)は何をやるのかなと考えるとよく分からなくなってくる。

この映画の主人公の一人、ハロルドは脚本を読んで絵コンテを描く人(Story Board Artist)。まさしく文章から映像への最初の段階を手がける重要な仕事であるが、映画のスタッフとしてクレジットされないのでその存在を知らなかった。どの仕事でもそうだが、優秀な人とそうでない人が居て、後者はそれこそ監督の指示で言われるように描くだけの人も居たのではないかと想像するが、ハロルドが凄かったのは、自分でアイデアを出して絵にしていったところ。

自分が思いつかないような視点での映像とかを代わりに発想してくれるのだから、ハリウッドの幾多の名監督がハロルドを使いたがったのは理解できるところ。しかも、ハロルドはクレジットされない裏方で、斬新な映像に対する賞賛は全て監督に来るのだから手放せない。黒澤明は自分で着色付きの絵コンテまで描いていたので、映像のアイデアを出すのかと漠然と思っていたが、ハリウッドではそこでも分業されていたというのをこの映画で知った。

もっとも、ハロルドが作るのは静止画面のアイデアで、それに動きを付けてセリフと音楽を付けるのは監督とスタッフの仕事。例えば、映画「十戒」で紅海が割れて道が開けるところを当時の撮影技術で撮ったのはすごいと思うが、その画面のアイデアはハロルドの絵コンテにあったというのは初めて知った。

映画「十戒」の絵コンテ

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.

ヒッチコックは好きな監督で、斬新なカメラアングルとどうやって撮影したのか分からないくらい巧みな撮影技術で見せ場を多く作っているが、映画「鳥」の絵コンテと映像を比べてみると、ハロルドの貢献が大きいことが今更ながら分かる。

映画「鳥」の絵コンテと映像

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.

映画「卒業」のベンがミセス・ロビンソンに誘惑される有名なシーンは、脚本にそういう指示がなければ、ハロルドの功績なのに、褒められたのは監督のマイク・ニコルズというのは、いささか不条理な気もする。

映画「卒業」の絵コンテと映像

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.

もう一人の主人公リリアンの仕事はリサーチャーでちょっと分かりにくい。映画に採用する時代、人物、デザイン、衣装に至るまで、映画がより真実らしく見えるようにするための調査の仕事。

リリアンがすごいのは、集めた資料をライブラリーとして管理して、その場を映画関係者のサロンのように運営していたこと。仕事で培った人脈と評判で、たびたび直面したライブラリー運営の危機に際しても、手を差し伸べるスポンサーが現れて活動を絶やすことはなかった。

おそらく、リリアンに一番助けられたのはハロルドで、脚本から絵コンテを描く際にリリアンの調査資料が役に立ったことは映画の中でも語られている。

リリアンはドリームワークスに請われて入社しているが、その関係もあってか、映画「シュレック2」に登場する国王夫妻が「ハロルド国王とリリアン王妃」となっていることが映画の中で明かされる。

2人が貢献した映画は100作以上、クラッシックからSFまで錚々たる作品が並ぶ。映画の中で引用される作品の監督には、セシル・B・デミルやヒッチコックのように亡くなった人も多いが、現役ではフランシス・フォード・コッポラ、メル・ブルックスがインタビューに応じて出演している。

この映画の制作年は2015年。リリアンは87歳で昔を回想して語っている。ハロルドは2007年に87歳で亡くなっているので、映画の中でのインタビューは映画製作前に撮りためられたものと思われる。2人の功績が埋もれてしまわずに映画として残って良かったなと思う。

予告編

2017年に観た映画

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