今日の映画 – 帰ってきたヒトラー（Er ist wieder da）

自殺直前のヒトラーが現代（2011年）のベルリンへタイムスリップしてくるという映画。

というとコメディかということになるが、確かに笑いを取るシーンはいくつもあるが、単純にコメディと言い切ってしまうのはちょっと微妙な感じ。

この映画の良く出来ているなと思う点はヒトラーの描写。タイムスリップという現実にはあり得ない現象で全く別の世界にトリップして戸惑ったりするところはある。しかし、短期間で現実世界に適応してインターネットを活用したり、持ち前の人を引き付ける弁舌など、ある意味並外れて優秀な人物に見える。ヒトラー自身がユダヤ人を強烈に批判することはないが、これは映画の都合上だったのかもしれないし、ヒトラーがまだユダヤ人について話すタイミングではないという狡猾な考えからの行動かもしれない。映画の中のヒトラーは変な人ではあるが、嫌悪感を覚えるような人ではない。これは考えように寄っては不気味なところ。

もう一つは、大衆はええかげんということ。ヒトラーに拒絶反応を示す人もいるが、一緒に記念撮影をしたりする人もいたりして。ドイツでも第2次世界対戦の記憶は風化しているのかと思わせる。また、テレビの製作会社の女副社長が、ヒトラーがテレビで使えると分かれば倫理観などあっさり捨て去ってしまう商業意識も気持ち悪い。ヒトラーが独裁に至る過程で革命やクーデターを起こした訳ではなく、選挙で選ばれるところから始まったことを思い起こさせる。

ナチス物は映画の中でも一つのジャンルを作るくらい題材とされてきたが、ヒトラー自身をこういう感じで映画にするのは本家ドイツでも相当微妙だったのではないかと思う。映画はその微妙なところで地雷を踏まないように計算されて作られているように感じた。

ドイツ映画は久しぶりで、監督も出演者も知らない人ばかり。ヒトラーを演じた俳優は無名ではあるが舞台出身のベテランらしい。

Trailer

2016年に観た映画