今日の映画 – 否定と肯定(Denial)

Denial

映画レビュー

ナチス、ホロコーストは映画の題材として繰り返し取り上げられてきた。この映画が一風変わっているのは、舞台がホロコーストに時代ではなく現代で、歴史としてのホロコーストが現実にはなかったというホロコースト否定論者と正しい歴史認識を守ろうとする主人公の対決であるところ。

映画館へ行く前は少々気が重かった。というのも、予告編などでティモシー・スポール演じるホロコースト否定論者の学者が事実を捻じ曲げて白を黒と言いくるめるようなことをするのは分かっていて、この種の議論がしばしば水掛け論に終わっててしまい後味が極めて悪いことを連想してしまうから。

しかし、映画が始まると、割とすんなりと抵抗なく観ることができた。法廷対決は、件の否定論者が原告で、被告がレイチェル・ワイズ演じるユダヤ系アメリカ人の学者。被告側の弁護士を演っているのがトム・ウィルキンソンとアンドリュー・スコットという配役だが、この被告側弁護士2人の冷静な戦略、周到な準備が功を奏するところは気味が良い。

映画の後半は舞台がイギリスの法廷で、裁判方式を陪審員か判事か選べることとか、イギリスでは立証責任が原告ではなく被告側にあるといくこととか、裁判のルールを理解しながら観なければならないが、こういった情報を過不足なく進行に織り込んであるところは上手。また、原告が裁判での勝利できなくても、ホロコーストの有無の両論併記になるだけで目的を達成できるともくろんでいることを見抜いて、その罠に陥らないように裁判を進めるロジックも分かりやすく描かれている。

ホロコーストに関しては、映画やドキュメンタリー番組などで知っているような気になっていたが、ガス室の建物がナチスの証拠隠滅によって終戦までに破壊されていたとはこの映画を見るまで知らなかった。調査や証言による再現映像を見て実物がそのまま残っているように思い込んでいただけで、自分の認識のええかげんさを思い知った。

スポール、ウィルキンソン、スコットの男優3人はイギリスの実力派でそれぞれの役にぴったりで良かった。一方、レイチェル・ワイズの役は本来は冷静な歴史学者のはずなのに、弁護士が立てた法廷戦略をちゃんと理解せずに感情的な行動に走りそうでひやひやさせられる。裁判の開始の際に関係者がお辞儀(といっても頷く程度だが)するしきたりに対して「アメリカ人はお辞儀しない」と傲慢とも取れる態度だったのが、結審のときにはお辞儀するようになっていることで裁判を通じて人間的に変わったことを見せているのだろうが、いかにもアメリカ人という役に作りすぎているように感じた。

この映画は2016年の作品で、1年以上経過してから日本公開となった。慰安婦問題、フェイクニュース、イスラエルの首都問題などを思うとタイムリーといえるが、事実を簡単に捻じ曲げることができて、それが今でも横行している現実には気が重くなる。

予告編

2018年に観た映画

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