今日の映画 – ロープ 戦場の生命線(A Perfect Day)

A Perfect Day

映画レビュー

冒頭、何のシーンかと思ったら井戸に投げ込まれた死体をロープで釣り上げるのを井戸の下から撮るという奇抜な映像。舞台は停戦直後のバルカン半島のとある村としか説明がないが、後の台詞の中に「ボスニア」が出てくるので第二次世界大戦後最悪の内戦と言われたボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争の終末期であることが分かる。停戦後の紛争終末期といっても、あたりは地雷だらけ、地元の少年が拳銃を持っていたり、紛争当事者が捕虜を虐殺するのではないかというシーンもあって、観ている側も相当緊張する。

この映画が面白いのは、紛争当事者や介入に入った国連軍ではなく「国境なき水と衛生管理団」というおそらくNGOとそのメンバーの視点で作られていること。そして、ベニチオ・デル・トロ演じるマンブルゥ、 ティム・ロビンス演じるビーをはじめとする4人の「国境なき水と衛生管理団」メンバーと、現地の査察に来たオルガ・キュリレンコ演じるカティヤの配役が絶妙。特にデル・トロとティム・ロビンスは現地にとどまるのは危険なことを承知しつつ、本国に帰りたくない不良中年の役にピッタリ。

現地の状況はかなり悲惨で停戦成立といっても危険と背中合わせの状態なのに、ロープの調達に苦労するところとか、道路に置かれた牛の死体とその対処方法、繋がれた凶暴な犬を眠らせようとするところなど、コメディに堕とさない程度の笑いを取るところなどポイントをうまく押さえている。誰かに地雷を踏ませるというような安易な手をつかわず、それでもハラハラさせるところも上手い。

登場人物のキャラクターだけでなく、ストーリーの組み立てもよく考えられている。牛の死体にせよ、子供たちの対立のエピソードを交えることで、外国から来た者が紛争当事者を調停することが簡単でないことを示すところにせよ、話に無駄がない。

敢えて突っ込むとすれば、国連軍を役に立たない官僚的なマニュアル至上主義者とするのは良いにしても、ロープの調達にくらいは利用できるのではというところ。さらに、ロープが切れても、切れたところを繋げばまだ使えたかもしれないのにと思ってしまう。あと、現地の少年はなかなか良かったが、彼だけがなぜか英語を喋れるというのもちょっと不自然。

原題の「A Perfect Day」は「最悪の日」の逆説的な言い回しかと思うが、邦題を「ロープ」としたのは悪くない。この映画の製作年は2015年。これだけ出来が良いのに配給会社がすぐに日本公開しなかったのはいささか残念。まあ、観れただけ良しとしよう。

予告編

2018年に観た映画

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