映画レビュー
ポーランド映画。モノクロで画面の縦横比も昔ながらの幅の狭いタイプ。映画の冒頭、いきなりバグパイプのような楽器とフィドルがポーランドの民謡を奏でる。奏でるというよりも、粗野で力強い演奏、次に足踏み式のアコーディオンを演奏するおばあちゃんに画面は切り替わる。これらがポーランドのマズルカという民謡なのかもしれない。洗練されていないが聞くだけで疲れそうな力強さがある。
映画の舞台は第二次世界大戦終結後の冷戦時代。ナチスドイツに蹂躙されたポーランドは自らのアイデンティティを再発見するために民謡を再発掘しようとしていたのかなと思う。ピアニストで指導的立場にいるヴィクトルは発掘する側、複雑な過去を引きずっているズーラは自分の能力で現状から抜け出したいとオーディションを受ける側。この2人が接近したり、離れたりしながら物語は進む。
音楽はこの映画の一つの柱で、民謡から始まるが、ヴィクトルたちの努力でステージでのコーラスとして実績をあげるやいなや横槍が入る。つまり、冷戦下でソ連の影響下にあるポーランド政府が音楽を国威高揚、指導者賛美に使おうとしてくる。面白いのは、この映画でズーラが「およよ~い」と歌う曲が、民謡からステージ音楽になり、フランスではジャズに編曲されて変遷していくところ。
ヴィクトルがフランスに亡命し、ズーラはポーランドに残る。その後も縁が切れずにパリやユーゴスラビアで再会したりまた別れたり、最後はヴィクトルが逮捕されるのを覚悟でポーランドへズーラを追いかけていき、案の定懲役15年をくらう。もうちょっとうまいことやるチャンスはなんぼでもあったのになぁ。
この2人は互いに求めあいながら、一緒にいるとつまらないことで仲違いして、結局どちらも抜き差しならぬ状況に陥った末に、そこから抜け出すためにあのラストシーンへ繋がるという筋書きは納得しにくいところはあるが、まあそんなものかなとも思う。タイトルの「Cold War(冷戦)」はこの映画の背景の東西冷戦だが、2人の微妙な関係のことにも掛けてあるのかもしれない。
ラストに近いところで、2人の乗ったバスが田舎の交差点で停まり、バスが画面の左に消え、バスから降りた2人が歩いて画面の左に消えていくのを固定のカメラで撮影したシーンが印象敵。映像がモノクロで、撮影手法も古典的、それがこの映画の時代に合っている。
予告編
2019年に観た映画
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