この映画も、ジョージア、フランス、イギリス、ドイツ、4カ国の合作。監督はイランから亡命して英仏で活動しているモフセン・マフマルバフ。
映画の冒頭の入りが良い。某国の独裁者が孫に夜景を見せて、電話で支持するだけでその灯りが一斉に消えたり灯ったりするのを見せていることで絶対的な権力を持っていること、そしてその権力を国民のためでなく自分のために使っているということを言葉なしで分からせてしまう。そしてそれに続くシーンで、電話の指示通りにならず、遠くに爆発が見えることでクーデターが起こったことを知ってしまう。
その後の家族を国外へ逃亡させるくだりは、今までに世界で何度も繰り返されてきた独裁の終わりのイメージを視覚化してくれる。この時に老独裁者が家族と一緒に脱出していれば話は終わってしまう。まだクーデターを押さえ込めると判断したのか、孫と2人国内に留まってしまう。ところが、事態は既に収拾がつかなくなってしまっており、一般人に紛れ込んで国境を目指すことになってしまう。これ移行は逃亡のロードムービーになっていく。
逃亡の過程で老独裁者も若い頃は普通の人だったことが分かり、羊飼いや旅芸人に変装してギターまで弾いてみせるのがあながち変でもないと思わせる。この逃亡が一人ではなく、なぜ幼い孫との二人連れにした監督の意図は、逃亡中でも弱いものには高圧的なところが変わらない老独裁者と将来独裁者として育つことになったかもしれない未来が決まっていない子供を対比させることにあったのかなと思う。
監督が独裁に対して批判的であることは明らかだが、クーデターを起こした側の兵士が一般人に狼藉を働くシーンを入れるなど、一方的な視点でないところが良い。
一風変わっているが、良く出来た映画。ラストで捕まった老独裁者と孫を民衆が処刑しようとするのを止める釈放された政治犯が「民主主義のためには暴力の連鎖を断ち切らなければならない」というようなことを言っているのがこの映画のメッセージだと思った。
Trailer
2016年に観た映画
番号 | 邦題 | 原題 | 監督 | 評価 |
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6 | 独裁者と小さな孫 | The President | Mohsen Makhmalbaf | 4.5 |
5 | ブラック・スキャンダル | Black Mass | Scott Cooper | 4.0 |
4 | 消えた声が、その名を呼ぶ | The Cut | Fatih Akin | 4.0 |
3 | 完全なるチェックメイト | Pawn Sacrifice | Edward Zwick | 4.0 |
2 | ブリッジ・オブ・スパイ | Bridge of Spies | Steven Spielberg | 4.5 |
1 | スター・ウォーズ/フォースの覚醒 | The Force Awakens | J.J. Abrams | 4.8 |