映画レビュー
クリント・イーストウッドの最新監督作で自身が監督する映画に出演するのは10年ぶり。88歳なので、これが最後の主演作になってもおかしくない年齢。主人公のモデルとなった運び屋のレオ・シャープが逮捕されたのは87歳くらいだったのでメイクしなくても素で演れる。
ストーリーはシンプルで、園芸農家である程度成功したが時流についていけずに破産した主人公を中心に、仕事を優先してないがしろにしたたために離れていった家族、ふとしたことから手を染めた麻薬の運び屋の雇い主であるカルテルのメンバー、それを追う麻薬取締局の捜査官たちという構図で進んでいく。
色々な見方があると思うが、なんといってもクリント・イーストウッドの存在感に尽きる。運び屋なので車を運転しているシーンが何度もあるが、ラジオの音楽をかけてときには口ずさみながらピックアップを運転しているだけで絵になる。
この主人公のアールは仕事も家庭もうまくいかず、挙句の果てに犯罪に手を染めるというところでは人生の落伍者なのにけっこうしたたかで、それでいて変に人当たりが良い。見た目は90近くの爺さんなのに、運び屋の仕事の途中で泊まるモーテルには2人の商売女を連れ込むし、警官に車を止められても余裕で丸め込んでしまうし、果ては麻薬取締局の捜査官にさえバーで自分から話しかけて微塵も疑われない。これをイーストウッドが完璧に演じている。
見ていて面白かったのはカルテルのメンバー達。皆が最初はアールに強面で接するが、仕事を繰り返すうちに下っ端が最初になついて友達扱いになる。カルテルのボスの側近が送り込まれて勝手気ままに運転しているアールを〆ようと脅して見張りにつくが、いつの間にか懐柔されてしまって逆にアールから組織を抜けたほうが良いと説教される始末。ボスが変わって新たに送り込まれて来た男も同じく〆ようとするが、アールが臨終の元妻を見舞うために勝手に離脱した際に、アールを殺せというボスに対して事情が事情だからと殺さないように取り持ってくれる。カルテルのメンバーの心情が変わっていくところを見せることで、アールの人を感化させる力を間接的に見せている演出がにくい。
一方、麻薬取締局の面々は、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャと大物俳優を揃えた割には捜査が全然進まず間抜けっぽい。まあ、活躍のしようがない筋書きではあるが、なんかちょっともったいない気もする。
家族との離反と和解もこの映画の一つのテーマ。元妻役のダイアン・ウィーストは実力も実績もある女優。ただ、臨終に駆けつけてくれたというだけであっさりアールを許すのは話を簡単にしすぎている気がしないでもない。娘役はイーストウッドの実の娘アリソン・イーストウッドが演じている。
予告編
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