映画レビュー
グレートウォール(=万里の長城)のタイトルから、漢民族と匈奴との戦いみたいなイメージを持ったが、全く違ってSF映画。空想上の怪物「饕餮(とうてつ)」の大群が60年に一度北から攻めてくるのを防ぐために造られたのが万里の長城で、そこに迷い込んだ西洋人のウィリアム(マット・デイモン)が主人公。
ストーリーについては突っ込みどころ満載で逐一あげつらう大人げないことはしたくないが、敢えて一つだけ指摘させてもらうと、万里の長城は総長6000km以上もあるのに、映画で人間と饕餮との攻防戦が行われるのはせいぜい数km程度。饕餮が防御の厚いところを避けて攻撃したら戦闘にもならずに突破できる。言い換えれば、この攻防戦の舞台が万里の長城であるべき必然性が全然ないということ。おわり。
監督のチャン・イーモウは、「HERO」、「LOVERS」などワイヤーアクションを使った戦闘場面や、鮮やかな色の使い方など斬新な映画を撮ってきたが、この映画はCGを使っていないカットがないのではと思うくらい画風が変わってしまっている。戦闘シーンは迫力あるし、城壁の上から命綱一本で飛び降りては攻撃するとこなどワイヤーアクションの名残を感じるところもあるが、制作資金が潤沢すぎて大味になってしまった感じがする。CGは饕餮の動きなどはよく出来ているが、冒頭の荒野のシーンなど風景部分の造りが甘く、一昔前のテレビゲームの背景みたいなチープさが目立つ。
ストーリーや俳優の微妙な演技力で見せる映画ではないので主演がマット・デイモンである必要もなく、ギャラが高くても名前で客を呼べる俳優を充てた感じ。相方のペロ役のペドロ・パスカルに至っては全く無名の俳優。3人目の西洋人にウイリアム・デフォーも大した役でない。準主演級のジン・ティエンは先日観た「キングコング 髑髏島の巨神」で最後まで生き残る科学者役をやっていたが、この映画では大抜擢。武術の達人ということになっているが、槍を持って戦うシーンでは腰が入っておらず素人っぽい。唯一、場を引き締めているのはアンディ・ラウであるが、その存在感にふさわしい役柄ともいえないのが辛いところ。
この映画に限らず、近年映画の中で中国が取り上げられることが多くなってきた。ハリウッドとしても、中国市場を意識せざるを得ないだろうし、中国資本の影響も少なからずあるはず。映画は様々な国で作られているから中国だからと特別視することではないが、言論の自由が無いことでは最近観たばかりの「人生タクシー」のイランと大差ない。そういう国のプロパガンダ映画を知らないうちに見せられるようになってくるとしたら少々気持ち悪い。
予告編
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