映画レビュー
ソビエト連邦解体後のロシアの映画を観た記憶がないので、これが初めてのロシア映画かもしれない。なので、最近のロシアの映画事情には全く疎いが、観てみると観客の心理を想定して綿密に作られたモダンな作風の映画だった。
映画のプロットはシンプルで、経済的に水準以上の生活をしていながら破綻して離婚間近な夫婦と12歳の息子。夫も妻もすでに次の相手が決まっていて息子を引き取りたくないということを知ってしまった息子が失踪し、捜索が始まるという筋。
この行方不明の息子がなかなか見つからず、観ている側はいつの間にか探す側の気持ちになって息子の行方を考え始めるが、その可能性の選択肢は次々と否定されていく作り方が上手い。そして、死体安置所のシーンでは両親は死体が自分達の息子であることを否定するが、その否定の仕方が逆に強すぎることで死体が息子であったことを示唆するが、それ以上の説明は加えられず観客の想像力に委ねられる。
その数年後のシーンでは、離婚した元夫が新しい妻とその母親と暮らす安アパートでの生活を見せることで、かつて高給を取っていた仕事を失ったこと、家庭内での実権も奪われてしまっていることを視覚的に見せる。
元妻の方はもっと分かりにくく、新しい夫と住む高級住宅でウクライナ紛争をロシア側の視点で報道するニュースを聴いた後、屋外のトレッドミルで黙々と走るシーンでは一言のセリフもなく、ジャケットの胸にはRussiaの文字が入っている。これが何を意味するのかよくわからないが、幸福とは言い難いことは見て取れる。
もう一つ印象深かったのは、警察の紹介で夫婦が息子の探索を依頼するボランティアのグループ。この行方不明者を捜索するグループは実際に存在するらしいが、リーダーの的確な判断力と統率力、人員を投入できる機動力、規律の取れたメンバーの行動など全てがプロフェッショナル。彼らが行動を開始したとたんに主導権を握ってしまい、夫婦は息子を探すことにおいての専門能力を持たないことだけでなく、今までの子育てにおいても良い両親でなかったことが対比としてあぶり出される構図が面白く、またよく考えられていると思った。
予告編
2018年に観た映画
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