今日の映画 – サンセット(Napszallta)

Napszallta

映画レビュー

前作「サウルの息子」でアカデミー外国語作品賞を獲得したネメシュ・ラースロー監督の長編2作目。観終わった感想は、前作よりも難解というか全然分からん。

撮影手法は「サウルの息子」と同様に主人公イリス(ユリ・ヤカブ)の後ろ1メートルくらいにカメラが付いて動いていくような感じ。なので、前方の景色はイリスの肩越しに見ることになる。しかも、「サウルの息子」と同様にぼかしを多用しているので肩越しの映像自体がぼけてなんとなくしか分からないことも多い。もちろんカメラはイリスの側面に回ることもあるし、イリスを含まないシーンもある。このばあいもぼかしが積極的に使われていて、たとえばカットが変わってイリスを含まない景色になったときにいきなり画面全体がぼけていて、それからカメラが引いていくと人が居てそこにフォーカスが当たるという使われ方もしている。

ついでに映像のことでは、光と影、闇の使い方が上手い。前作はナチの収容所という特殊な環境で、闇が多く明かりが限られていたのを利用して闇を見せていた。一方、この映画の舞台は1913年、第一世界大戦の前のブダペスト。ヨーロッパの石造りの建物なので、室内の照明は限定的で、昼間は部屋の広さの割には小さな窓からの明かりが頼り。撮影が自然光だけで行われたどうかは分からないが、人を撮るときに窓側からカメラを向ければ普通に撮れるが、逆だと逆光で人の姿が黒く潰れてしまう。その中で、目だけがうっすらと見えるというような映像を新鮮に感じた。また、建物から日中の通りに出ると、そこには光が溢れていて、室内とのコントラストも映像として面白い。

映画のストーリーは2歳で両親を失った主人公イリスが成人して今は人手に渡ってしまっている両親の帽子屋を訪ね、そこで存在を知った兄を探し歩くというもの。映画の中で説明的なセリフや映像は一切ない。映画の開始からしばらく経って、この映画は視聴者に推理させるサスペンス物なのかなと思いつつ観ていく。イリスは兄の消息をたどるために、いろいろな人と会い、情報を得ようとする。そういう5分前後の場面が次々と続いていくが、相対する人の言葉は、「この場所を去れ」というような短い言葉だけで、情報らしい情報が含まれない。それに輪をかけて不自然なのは、イリスが追加の質問をするなど、情報をさらに引き出そうとする努力をしているように見えないこと。なので、映画が進んでも推理に役に立たない情報の「断片」が増える一方で核心への道筋が全く見えてこない。

それだけでなく、イリスを取り巻く人達の行動も変。イリスを邪魔者扱いして、列車の切符を与えたり、馬車に乗せたりして遠くへ追いやろうとするが、そのたびにイリスはするりと戻ってくる。それに対してより有効で厳しい手を打つどころか、戻ってきたイリスを受け入れているのはかなり不自然な感じ。

そういう訳で、前半は謎解きするぞと張り切って観るが、後半はかなり疲れてくる。そうすると、細切れの役に立たない情報だけの会話の繰り返し、イリスの不審な動きと周りの人の態度に、敢えて不自然にしてでも観衆を惑わせてやろうという監督、脚本家の意図が見えたような気がして、ちょっと白けてしまった。ラストの第一次世界大戦の塹壕らしいシーンも、監督からすれば、「それまでのシーンとの関連はご自由にご想像ください」なのかもしれないが、これでは観客を投げ出し過ぎではないだろうか? 観た人の想像に任せる部分があっても良いと思うが、142分という長尺でここまでやると限度を超えてしまっている。映像が良いだけに残念。

予告編

2019年に観た映画

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