映画レビュー
イラクのIS(イスラミックステート)が掃討されてその領地を失ったのはごく最近のこと。この映画はISがその勢力を伸ばしつつ合った2014年に起こった事件をモチーフにしている。
映画はフランス人ジャーナリスト、マチルドが取材のためイラクの戦闘地域へ取材のために入るところから始まる。そこのジャーナリスト仲間は安全が確保されなくなったので撤収するが、マチルドは残って取材を続ける。そこでISと戦っているクルド人の集団の中で出会ったのが女性だけの戦闘部隊を率いるバハール。
映画が進むに連れ、バハールの部隊のメンバーはいずれもISに家族を殺されたり、子供を戦闘要員にするために連れ去られたり、性奴隷として虐待を受けていた人たちであることが分かる。バハール自身も元は弁護士で比較的裕福な家庭だったのがISによって全てを奪われた。片や取材する側のマチルドも戦闘に巻き込まれて片目を失い、同業の夫も別の戦闘地域で落命しているという境遇。娘を本国に残しながら使命感に押されて危険な仕事をやめられずにいる感じ。マチルドがバハールの部隊に同行して取材を続ける形で映画は進行する。
戦争映画では、いつ突然の死が訪れるかもしれない緊張感がつきまとうが、この映画も観ていて結構緊張する。実際にメンバーの中からも死亡者が出る。女性だけの部隊とはいえ、自分の銃の手入れは各自で行なうところや交代で見張りに立つところなど、鍛え上げられた兵士であるところが見て取れる。その部隊を纏めているバハールはシャキッとして格好良い。
映画の進行とともに、バハールの過去がシーンが織り込まれて過去と現在が同時進行する。過去の部分では、バハールの一家が突然ISに襲われて、大人の男性はその場で射殺、子供は連れ去られ、バハールたち女性は性奴隷に売られるところから、苦労して脱出するまでの話。この過去の部分だけでも1本の映画が作れるくらい緊迫感のあるシーンが続く。
現在の方は、ISとの戦闘を交えながら、最後は囚われていた息子を含む子どもたちを開放するところで、とりあえずのハッピーエンド。こちらも、ISが自爆などの非人間的な手段を常用していた事実を知っているだけに、次になにが起こるかはらはらさせられる。
映画の中で出てくる男たちは、バハールの部隊と共同で敵の掃討にでる連中をのぞけば、ISのメンバーや、クルド人の優柔不断な司令官など、イマイチな人ばかり。過去のシーンでバハールたちの脱出を手助けする男も金が目当ての協力者だったりする。それに比べて、女性たちが輝いている。女性兵士が部隊の歌を合唱するところなど、女性監督ならではの視点で撮られてると感じた。原題はバハールの部隊の名前「太陽の女たち」、センチメンタルな邦題はこの映画にそぐわない。
バハール役のゴルシフテ・ファラハニはイラン出身の女優で、近いところでは「パターソン」でアダム・ドライバーの妻役をやっていた。整った顔立ちで、知性的で意志の強い役を好演。
クルド人はしばしばニュースに出てくるが、今までよく知らなかったので映画後で調べてみた。彼らはトルコ、イラク、イラン、シリアなどに住む民族だが、自分たちの国家を持っていない。なので、過去だけでなく現在でも迫害されたりしているのは気の毒。以外なことに、宗教は大半がイスラム教徒。ところが、バハールの部隊のメンバーはイスラム教ではなくヤズディ教というイスラム教、ゾロアスター教、バラモン教などが混合して派生したようなマイナーな宗教の信者でよりひどく迫害されていた人たちらしい。
予告編
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