今日の映画 - ジョーカー(Joker)

Joker

映画レビュー

ジョーカーはDCコミックの「バットマン」に登場するヴィラン(悪役)。過去にはジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトがジョーカーを演じていた。これらの映画ではバットマンに対する敵役としてジョーカーが登場したのに対して、この映画はジョーカーを主人公に据えたものでバットマンは登場しない。映画の舞台がバットマン以前の時代で、将来バットマンとなるブルース・ウェインが少年として数シーン登場する。この時代設定はテレビドラマの「ゴッサム」とほぼ同じ。

過去のジョーカーでは「ダークナイト」でのヒース・レジャーの渾身の演技が群を抜いていて、これを超えるのは難しいのではないかと思っていた。が、アーサー・フレックという男が「ジョーカー」になるに至るまでを描くこの映画で、ホアキン・フェニックスは強烈な個性を発揮して新しいジョーカーを見せてくれた。この映画では最初から最後までホアキン・フェニックスが写らないシーンは殆どないので、ホアキン・フェニックスを観る映画といっても良い。なのでホアキン・フェニックスが好きか嫌いかで評価が分かれる映画だと思う。

映画には、上流階級と下層階級との分断、家庭内暴力、子供虐待なども描かれているので現代社会への警鐘などの解釈があるかもしれないが、そんなことよりもホアキン・フェニックスが演じるジョーカー自身がこの映画の本質だと思う。地下鉄で最初の殺人を犯してアパートへ戻った後にバスルームで踊る。太極拳を思わせる足の運びとゆったりとした動きで、アーサーが何か違うものへ変貌しつつあるのを見せるところがなかなか良い。ラスト近くの階段でのダンスシーンは過去の作品で見知ったジョーカーの服装とステップで、ここも見どころ。

監督のトッド・フィリップスが脚本も書いていて、ジョーカー役にホアキン・フェニックスを想定してして書き込んだというから監督のイメージ通りの映像になっていると思われる。ストーリーはシンプルにも見えるがこの脚本はけっこう複雑で、どの部分が真実で、どの部分が想像なのか視聴者に考えさせるというか惑わせるようなところがある。

例えば、デ・ニーロ演じるマレー・フランクリンのテレビ番組の公開録画を観に行ったアーサーがフランクリンに呼ばれてステージへ上がるシーンは明らかに現実ではなくアーサーの想像というか妄想。アパートの同じ階に住む子連れの女性ソフィーの部屋に侵入した後に、彼女を殺したかどうかは明示されないが、彼女と恋人関係になっていたその前のシーンがアーサーの妄想だとすれば彼女は殺されていたと考える方が筋が通るなど。

出演者の出番をホアキン・フェニックスが独り占めしていることもあり、名のある出演者は意外と少なくて、ロバート・デ・ニーロくらい。だからという訳ではないだろうが「タクシー・ドライバー」を連想させるところが随所にある。マーティン・スコセッシが本作品のエグゼクティブ・プロデューサーに入っているのも関係しているかもしれない。

あと、ゴッサムシティの風景、地下鉄の落書きなどの映像がなかなか良い。ホアキン・フェニックスがピエロの衣装でクラッシックなバスの窓ガラスにもたれているのを外から撮った映像とか、後半で同じバスの最後列の真ん中に座って背景が流れていく映像とか工夫を凝らしていると思った。

予告編

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