映画レビュー
ナチス支配下でのユダヤ人の映画は数多く撮られてきて名作も多いが、多くのユダヤ人の結末は収容所へ送られて大量虐殺の犠牲になるというのが史実なので正直気が滅入る。
この映画もナチスのユダヤ人捜査の手をくぐり抜けてというものだが、他の映画と決定的に違うのは逃げ切って生き延びた4人が主人公であるということ。なので、映画の危ない場面ではハラハラするものの、切り抜けてなんとかすることが分かっているだけで気が楽といえる。
映画の説明文によると、虐殺されたヨーロッパのユダヤ人は約600万人、脱出できずにベルリンで潜伏した人が約7000人、戦争終結まで生き延びたのが約1500人。映画の4人はこの1500人の一部。7000人のうち5500人は途中で見つかって気の毒な運命を辿った訳だから、生き残る1500/7000=21%、命をかけるには分の悪い賭け。
映画は4人の物語を並行してすすめ、途中に生き残った本人たち(うち、2人はすでに亡くなっている)のインタビューを交える形式。4人に共通しているのは、危機を察知して避ける才覚があったことと、たまたま支援してくれる人に巡り会えたというツキがあったこと。
4人のうち一番興味深かったのは、ツィオマ。身分証偽造の特技を持ち、安全な隠れ場所を探す慎重さを持っていて、潜伏中に偽造で稼いだ金でヨットを持つ身分になりながら、自分の身分証入のカバンを置き忘れるうっかり者。それで指名手配されても、自分で偽造した休暇中の兵士の身分証を使って、あっさり自転車でスイスへ逃げてしまうのが痛快。
映画はドキュメンタリー風に丁寧に作られて入るが、省略されているように感じてしっくりこないところがいくつかあった。例えば、何度も安全な潜伏場所を失いながら、次の隠れ家をうまく見つけられた経緯が分かりにくかった、特にドイツ軍将校のメイドに潜り込んだところ。美容院で金髪に染め直したハンニはお金を持っているようには見えなかったが、どうやって終戦までまで髪を染め続けることができたのかが疑問。終戦直前にゲシュタポに見つかって逮捕されてしまったオイデンがなぜ釈放されたのかも説明不足。
とはいえ、違う視点からのナチスとユダヤ物の映画として面白かった。特に、当時の生存者が高齢で、映画にするには最後のチャンスだったので、映画化は良いタイミングだった。
予告編
2018年に観た映画
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