映画レビュー
ナチスを扱った戦争映画は数多くあるが、この映画はドイツが各戦線で勢いを失って敗戦へと進む戦争末期が部隊。鉄の結束だったはずのドイツ軍も配色濃厚となると脱走兵が続出し、その数は数千人に上ったという。主人公のヘロルトも脱走した上等兵、それが偶然中尉の軍服一式を手に入れ、それを着て将校と成りすますことによって傲慢で残酷な人格になりいろいろと悪さをするという話。
映画の冒頭は、脱走兵ヘロルトが林の中を逃げ回り、憲兵の追跡からかろうじて逃げ切るというところから始まる。ここでヘロルトは顔中泥まみれ、必死の形相は醜い。それが、中尉の軍服を着たとたんに、見た目シャキッとした軍人になってしまうこのギャップの魅せ方がうまい。
ヘロルトは持ち前の状況に応じて機転が効く才と嘘の上手さを駆使して中尉になりすまし、その特権使って自分が生き残るためだけでなく、より立場の弱い者への残虐行為に走るモンスターとなっいく。映画はこの過程を違和感なく描いていく。
観ていて思ったのは、「制服」が思った以上に周囲の者に与える影響が大きいこと。上位の者の命令には100%服従しなければならない軍隊という組織では当たり前のことかもしれないが、ナチス・ドイツの制服は機能的なだけではなく、周りへの威圧を意識したデザインで、良し悪しは別として見た目が格好良い。制服の効果を最大限に発揮するデザインとしてよく考えられていると思った。
そういう訳で、この映画は戦争映画というよりも、極限状態で人間の心理、性格、行いが、普段では起こりえないような変貌を遂げることをヘロルトという人物を通して見せているといえる。それは、ヘロルトだけでなく、制服を着た将校に盲従する兵隊や、ヘロルトの正体に疑問を持ちながら自分に都合が良ければ付き従う周囲の者の人間性も暴いていく。
ナチス物の映画の多くはユダヤ人を虐待するが、この映画では敢えてユダヤ人を登場させずに、脱走して捉えられ収容所に入れられたドイツ軍兵士が虐待の対象となっている。ヘロルトは、元の自分と同じ立場だった兵士に憐れみの気持ちを持つこと亡く、冷酷に殺戮の命令を下す。
最後に捕らえらてて軍法会議に掛けられた際にも、判決を下す側が、ヘロルトの犯罪を断罪する者と、その常識はずれな行動を逆に評価する者とに分かれるところに人間というものの危うさが見て取れる。いろんな意味で異色の戦争映画。
予告編
2019年に観た映画
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