映画レビュー
まず、邦題の「素晴らしきかな、人生」に文句を言いたい。古い映画を知っている人ならフランク・キャプラ監督の名作「素晴らしき哉、人生!(原題:It’s a Wonderful Life)」を当然連想するが全く関係なし。
原題の「Cllateral Beauty」は日本語に訳しにくいが、映画の字幕では苦労して「幸せのおまけ」とやっていた。「Collateral」という単語の意味は、「付随した」とか「伴って起きる」という意味なので、この映画では娘の死という不幸事に伴うちょっとした良いことということか。たしかに日本語にするのは難しい。
物語の主要登場人物は結構多くて次の8人。5歳の娘を亡くした失意で離婚し、経営する広告会社を3年間放っぽったままの主人公ハワード(ウィル・スミス)、同じ会社で働くクレア(ケイト・ウィンスレット)、ホイット(エドワード・ノートン)、サイモン(マイケル・ペーニャ)の3人組、この3人がハワードを正気に戻すために雇う舞台俳優のブリジッド(ヘレン・ミレン)、エイミー(キーラ・ナイトレイ)、ラフィ(ジェイコブ・ラティモア)の3人、そして子供を亡くした親同士が「断酒会」のように語り合う会を主催するマデリン(ナオミ・ハリス)。
特筆すべきは豪華キャスティング。ケイト・ウィンスレット、ヘレン・ミレン、キーラ・ナイトレイは主演を張れる女優やし、エドワード・ノートン、マイケル・ペーニャ、ナオミ・ハリスも実力派。これだけの顔ぶれを並べるとさすがに一人あたりの出演時間とセリフは限られるが、友情出演ではなく皆それぞれ意味のある役を演じている。映画冒頭のまだ元気だった頃のハワードがスピーチで語る「愛」、「時間」、「死」 の3つがある意味テーマで、同僚の3人と俳優の3人をそれぞれに割り当てるという上手いやり方で多い登場人物を混乱なくスッキリと見せている。そこで一人浮いてくるマデリンとの関係がどうなのかはっきりしないまま話が進むが、最後に「おお、そうか!」という結末に持っていくところは脚本が巧み。
最後にはハワードが立ち直りの兆しをみせるが、その過程で同僚3人もそれぞれが抱えていた問題に対して前向きに進み始めることも「Collateral Beauty」であるといえる。全てがハッピーという訳ではないが、なんかいい感じという終わり方。この映画はキャスティングは豪華ではあるが、アカデミー賞作品賞を狙うような大作ではなく程よいサイズ感の作品。アメリカ映画には伝統的に大作ではないが、映画を見終わって「良かった」と思わせるような佳作が数多くあって、これもそういう映画。
と、ここまで褒めてきたが、見ているうちに感じた微妙な違和感もある。まず、ハワードの絶望と落ち込み方が激しすぎて実感としてイマイチ入り込めなかったこと。自転車で夜の一方通行車道を逆向きに疾走するのはありえんやろ、死ぬで。あと、同僚3人がハワードが会社経営能力を失っていることを証明するために3人の俳優を使うところまではよしとしても、撮影したビデオを都合よく編集するのは犯罪やん。その分と邦題の付け方のあざとさを減点して、評価は3.5。
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