今日の映画 – フロントランナー(The Front Runner)

The Front Runner

映画レビュー

「フロントランナー」はその言葉の通り「先頭を行く人」。ただし、この映画では大統領選挙の「最有力候補者」の意味。この映画はフィクションではなく、1988年の大統領選挙で最有力候補と目された民主党のゲイリー・ハート上院議員の実話に基づく映画。

最近観た「ファースト・マン」でもそうだったが、実話に基づく映画は勝手に話を改変できないだけに、主人公が特別な魅力を持たない限り地味な映画になりがち。ましてや、ゲイリー・ハート上院議員の名前はうっすらと記憶にある程度で大半の日本人にとっては縁遠い存在。映画館で予告編は何度も目にしたが、興行成績が良いという話もなく、他の多くの映画の中に埋没しているかのようだった。

映画のオープニングは4年前の大統領選挙に名乗りを上げたが夢叶わず撤退するところ。しかし、敗戦にくよくよすることなく前向きに次に向かっていく姿を見せて4年後に場面は変わる。より賢く強くなったハートは民主党の最有力候補となっている。ハートを演じるヒュー・ジャックマンは当たり役のウルヴァリンを卒業し、本格的な性格俳優としての道を目指しているように見えるが、知的で精力的なハート役を好演。10年前の「オーストラリア」ではニコール・キッドマン共々コケたけど、「レ・ミゼラブル」、「プリズナーズ」でもいい味を出しているので良い俳優になるかもしれない。

映画が描くのは3週間という短い期間。この間に、ハートは絶好調からどん底まで転落する。その過程がこの映画の見どころ。結果的にはハートの下半身がゆるゆるで女性問題を起こしたことが失敗の原因。こういう見方はどうかとも思うが、大統領になってからなら同じことをしてもクリントンのようにもみ消すことが出来たかも知れない。ハートはリーダーシップ、先見性、見た目の良さなどから有能な大統領になる資質を持っていたように描かれているが、反面問題となった女性問題については選挙参謀や側近がその話題に触れることを嫌い、冷静な対策検討を行わないばかりか激高するところなど、大統領としてはストレスに弱いのではと思ってしまった。

この映画は大統領候補の話だが、もう一つのポイントはマス・メディア。大統領候補が全国を遊説する際に、各メディアの番記者が飛行機やバスに同乗してぞろぞろと付いていく。皆、特ダネを狙って取材したいのだが、特別待遇を与えられているのがワシントン・ポスト。一方、三流紙のマイアミヘラルドがハーツの不倫疑惑をすっぱ抜くが、それを見たワシントン・ポストの編集長の「ポストはそういう下世話なネタを扱わない高みの存在だったが、今となっては扱わないと非難される」という言葉がメディアの世俗化を物語っていて興味深い。

映画の終盤で不倫問題の事が大きくなって記者会見を行うことになってもハートには十分勝算があったものと思われる。おそらく、記者の質問が軽いものであれば冗談で受け流す才覚は十分あったはずで、もし不躾に突っ込んだ質問があればその不躾さを逆手に取って拒絶するという作戦だったかなと思う。ところが、厚遇していて身内だと思っていたワシントン・ポストの若い黒人記者が真面目すぎたところがハートにとっては予想外で致命傷になってしまうのが皮肉なところ。

マス・メディアは事実を報道するだけでなく権力に対する監視役でもあると思うが、その質は玉石混交で、その匙加減一つで世の中は大きく変わってしまう危うさを併せ持っていると改めて思った。今ではインターネットの普及でフェイクニュースなど、危険性がさらに増している。ある意味、自らフェイクを乱発しながら自分に気に入らない報道をフェイクニュースと決めつけるトランプ大統領へのやんわりとした批判と見るのは考えすぎだろうか?

予告編

2019年に観た映画

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