映画レビュー
映画は始まって最初の10分くらいはセリフがない。役者が喋るようになってもセリフは少なめで、その内容も朴訥と言って良いくらい簡潔でダラダラ話さない。これが一種独特な世界観を作っている。監督のアキ・カウリスマキは、とあるインタビューで「私は昔はシナリオライターで長いセリフを書いていた。それがだんだんと短くなって音楽に置き換わっていった」というようなことを言っていたが、その面目躍如。アメリカ映画だとこうはいかない。
舞台はヘルシンキ。以前に訪れた時には明るい清潔な街という印象だったが、この監督の手にかかると昔の映画を見ているような煤けたような色合いと影との組み合わせで全く違った感じを受ける。それが、この映画に出てくる普通の人たちとマッチしている。
主人公カーリドは、シリアから戦乱を逃れてフィンランドに辿り着いた難民。それを取り巻く人たちは、カーリドの難民申請を却下して国外退去させようとする公務員、人種的偏見で暴力を振るうネオナチ、そして援助の手を差し延べる普通の人たち。その普通の人たちの一人のレストランの主人のビクストロムたちがいい感じで描かれる。
カーリドとビクストロムが出会うまではそれぞれの話が並行して進むが、カーリドの部分はシリアル、ビクストロムの部分は淡々とした不思議なコメディタッチ。出会ったあとはその2つが混ざったようになる。特に経営するレストランのテコ入れで寿司レストランに衣替えする部分はアンバランスなくらい飛んでいる。
セリフを少なく簡潔にするのと同様に、ストーリーの取り回しも細々とした部分を切り落としてシンプルなパーツにしてから組み上げたような感じ。その中に、カーリドが自分も困っているのに物乞いの老人に小銭をあげたり、所々に心温まるちょっとしたシーンが織り混ざる。最後は突っ放したような終わり方をするが、見てよかったなぁという映画。
予告編
2018年に観た映画
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