今日の映画 – ローマ法王になる日まで(Chiamatemi Francesco – Il Papa della gente)

ローマ法王になる日までのポスター

映画レビュー

タイトルからフランシスコ現ローマ法王が選出されるまでの話であることは想像できたが、もう少し軽めの映画かと思ったらけっこう重かった。というのも、バチカンでのシーンは全部合わせてもせいぜい10分、残りはドイツへの留学の部分を除けば法王の母国アルゼンチンでの話、しかもそのアルゼンチン時代の大部分が軍事独裁政権下で労働者、活動家、学生、ジャーナリストなどの一般市民が延べ3万人以上殺されたり、行方不明になった時代。

軍事独裁政権の期間は1976年~1982年の間なので、法王になる前のホルヘ・ベルゴリオが40歳から46歳で、まだアルゼンチンの司教になる前の管区長という上級管理職みたいな役職の時代。カトリック教会のトップが政府の言いなりになっていたのに対して、ベルゴリオはある程度の妥協はしつつも、危険を犯して政府に追われる活動家や学生を匿うなど、自ら信じるところの最低限は守り通すというように描かれている。このあたりは、国家の暴力・弾圧をテーマにした映画のよう。特に、逮捕した容疑者を薬で眠らせて輸送機から海上へ落としていくところが生々しい。

民主化の後は、ドイツ留学、帰国後の僻地での閑職から副司教に取り立てられて、不法に立ち退きを迫られている庶民を助けるなどのシーンがあるが、その後は76歳で法王に選出されるまでのアルゼンチンでの期間が映画では空白。敢えてカットしたのかもしれないが運営の手腕のある人だったらしので、アルゼンチン時代の教会の改革などのエピソードがもっとあっても良かったかもしれない。

現職のローマ法王の映画でしかもイタリア製作となれば、美化されているところもあるのではと思う。しかし、受ける映画を作るなら、原題の「Il Papa della gente = 庶民の法王」らしいエピソードは、普通のアパートに住み続けたとか、法王に選ばれた次の日に自分で泊まっていたホテルの支払いをしたとか、アルゼンチンに置いてきた靴をバチカンへ送ってもらったとか、たくさんある。そういう一般受けしやすい題材を使わずに、敢えて扱いにくい軍事独裁政権下での政治と宗教の問題に多くの時間を割いているところにこの映画を作った人の真面目さを感じる。

予告編

2017年に観た映画

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