映画レビュー
50年代に白人しか住んでいない新興住宅の街に黒人一家が引っ越して来たときに起こった暴動に近い人種差別事件と保険金殺人とをミックスしたようなストーリー。元々はコーエン兄弟が完成させていた脚本にジョージ・クルーニーが参加して、監督もクルーニー。
映画を見終わっての感想は、「惜しい」かな。コーエン兄弟らしいブラックユーモアが効いた「変な」映画であるところは期待通り。前作「ミケランジェロ・プロジェクト」の監督で大外ししたクルーニーもこの映画に関しては歯切れのよいいい感じで撮っている。しかし、なぜ監督はコーエン兄でなかったのか? クルーニーは監督、制作をやりたいようだが、もうちょっと俳優として頑張ったほうがええのんちゃうかな。
映画の構成で引っかかるのは黒人一家の話がこの映画に必要だったのかということ。コーエン兄弟の映画には、最初なんだか分からないが、観ているうちに話が通って、最後は成程というのが多い気がするが、この映画に関してはそれが無いまま終わってしまった。
人種差別とは別に、映画の中ではマット・デイモン演じるガードナーがユダヤと勘違いされていたというシーンがある。また、義兄がガードナーの宗派が聖教会だから信用できないというくだりがある。聖教会はカトリックとプロテスタントとの中間的な宗派らしく、ということは少数派ということだと思うが、人種差別、マイノリティ差別という繋がりを考えても繋がらない。
だったら黒人一家の部分を切り離して、保険金殺人のサスペンス映画として作れば面白い映画になったのではないだろうか? というのも、ドアの下の隙間から見える隣室の人の影を見て少年が怯えるところとか、ジュリアン・ムーア演じるマーガレットの殺害場面をシルエットの部分とか、ベッドの下に隠れた少年から脚しか見えないところとか、所々に50年代に活躍したサスペンスの巨匠ヒッチコックへのオマージュを感じる。それに、マット・デイモンが自転車に乗るところとか、ジュリアン・ムーアのネジの外れた演技とか、子供が友達からヘビをもらうところとか、コーエン兄弟ならではの崩しが混ざって良い感じなのだが・・・
出演者については、保険会社の調査員役のオスカー・アイザックが良い感じ。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のダメロン役でブレイクしたが、その前にコーエン兄弟の映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」でしっかりした演技を見せているので実力派としての今後が楽しみ。
ジュリアン・ムーアのちょっと知恵が足りなくて引きつった感じも良かった。だが、マット・デイモンのキャスティングは失敗と思う。50年代の大企業の財務部長の役なら、ヒチコック物ならケーリー・グラントかジェイムス・スチュアートみたいなシュッとした人を充てて欲しかった。昔風の二枚目はもう絶滅してしまったから、今ならテレビドラマ「MAD MEN マッドメン」で売り出したジョン・ハムあたりで見てみたかった。
という訳で、部分的には光るところも多かったが、全体としては残念な映画。
予告編
2018年に観た映画
2018年版「今日の映画」のリストはこちら。