映画レビュー
5歳の時に迷子になって親とはぐれたインド人の子供が養子縁組でオーストラリアに渡り、25年後に自力で生まれ故郷を探して実の母親と再会する実話に基づいた映画。最近のアメリカ映画はいきなり始まりキャストとスタッフはエンドロールで延々と流すのが多いが、この映画はオーストラリア製作なので最初にキャストとスタッフの名前が表示される昔ながらの入り方。インドの風景を鳥瞰した映像が流れるが、このシーンが後で話の流れに関係してくる。
予告編などで話の大筋は分かっていたので主人公の子供時代と成人してからの映像を交えながら話を進めていくのかと想像したが、映画の前半はインドでの子供時代の話。1985年前後のインドで主人公が眠っている間に列車で生まれ故郷から1600km離れた土地に行ってしまう。放浪の末孤児院に収容され、オーストラリアの養父母へ引き取られるまではインドを堪能できる。1600kmといえば、東京~大阪の約3倍の距離、たどり着いたコルカタの言葉はベンガル語で、故郷での言葉ヒンディー語が通じない。国土の広大さ、言語の違い、人間だらけの駅や雑踏のシーンを見せつけられて、親元に帰ることが絶望的に困難であることがひしひしと分かる。凝った作りにせず、時間軸に沿ってドキュメンタリー風に進んでいくシンプルな撮り方がかえって良い。
ハラハラさせられる前半に比べて、後半のオーストラリアに渡ってからはいささか単調で平凡。養母役のニコール・キッドマンはおばさん役に挑戦ということでは新しい試みかもしれないが、この役はニコール・キッドマンでなくても大丈夫な役。オーストラリア製作なので地元出身の女優で名前で集客できるキッドマンを無理やり押し込んだ感じ。キャンセルになったが、製作発表当時はヒュー・ジャックマンの出演もアナウンスされていたので、実現すればコケた大作「オーストラリア」の悪夢再現になっていたところ。
主人公の大学時代の同級生で恋人役を「ドラゴン・タトゥーの女」、「キャロル」の ルーニー・マーラが演じているが、この恋人との振って、振られて、仲直りという話は全く本題と関係しない。いかにも話を膨らませるために加えたという感じだが、あいにくその効果は出ていない。
成人してからの主人公役のデブ・パテルは「スラムドッグ$ミリオネア」の子供から「チャッピー」を経由していい感じの俳優になっていた。インド出身で都会風のドラマができる30前後の俳優はあまり思いつかないので、今後もハマる役があれば期待できそう。
原作『25年目の「ただいま」』を読んでいないが、Wikipediaによると原作者サルー・ブライアリーの生まれはインドのカンドワになっている。カンドワはGoogle Earthで見るとインドのほぼ中央に位置する。
ところが、映画ではもっと北のネパールに近い方角を探索して見つけたことになっている。
故郷の場所を変えた訳は分からないが、映画では子供時代に石集めをする母親を手伝った地域(これが映画冒頭での鳥瞰シーン)に似た地形を偶然Google Earthで見つけたということになっているので、そういう地形のある地域にしたのかもしれない。
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2017年に観た映画
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