今日の映画 – ジミー、野をかける伝説 (Jimmy’s Hall)

映画の冒頭は世界恐慌時代のアメリカ、失業者だらけのニューヨークの古い記録フィルムが流れる。映画の舞台はアイルランドで、主人公のジミー・グラルトンは労働者階級の活動家くらいの予備知識で観たので、「なんでアメリカやのん?」というのが最初の印象。

スクリーンショット_012115_104619_AM

映画が進むに連れて、故郷を追われてアメリカへ亡命していたジミーが10年ぶりにアイルランドへ戻ってくるところというのが分かってくる。アイルランドというと、アイリッシュ・ウィスキーとかギネスのイメージはあっても、その歴史をよう知らんかったから、映画のあとでざっと調べてみたけど、となりのイングランドとの紛争やカトリックとプロテスタントとの対立とか苦労の連続の歴史。

1840年代に主食のジャガイモの病気で飢饉が起こった際には、餓死と移民で人口が半分になってしまったという。映画の舞台はもっと後の1930年代で、ちょうど世界恐慌が始まった直後。映画の中でもアメリカへ移民した親戚からの仕送りが期待できなくなったようなセリフがあったけど、そういう時代背景が冒頭のシーンで語られている。

10年前にジミーが故郷を離れたのは、労働者(小作人)と権力者(地主+教会)との対立の結果、逃亡せざるを得なかったため。その原因となったのが、原題になっている「ホール」で、これはジミーが仲間と一緒に建てた小屋。ここで労働者仲間が集まって歌や踊りやボクシングなどの練習をしているのを面白く思っていなかった教会や地主が圧力を掛けてくるという構図。

この時の教会の神父の言い分は、「教育する権利と義務は教会にあって、勝手に集まって勉強したらあかん」というもんやから相当酷い。場所と宗派は違っても、アメリカのバイブルベルトで教会が弾圧する側に廻る映画で感じるような理不尽さを強く感じる。

主人公のジミー・グラルトンは実在の活動家ながらも記録がほとんど残っていないというから、映画の筋の大部分は創作によるもの。ケン・ローチ監督が政治的意図を持って撮った映画みたいやけど、ハッピーエンドではない結末の割には、陰湿な感じがあまりしない。これは、主人公が殺されなかったことに加えて、失業者だらけで生活は苦しいはずやのに、労働者が困窮するシーンが少なかったからと思う。

日々の生活が楽ではないのに、歌や踊りを楽しんでいる労働者のポジティブな側面を見せているのも監督の意図したところか。 それに加えて、アイルランドの殺伐としていながらも草木の緑が鮮やかな風景が美しい。 主演のバリー・ウォードはアイルランド生まれの無名の俳優。出演者の中にはブロの俳優でない人も混ざっているらしいけど、みんな生き生きしていて、ストーリーとは裏腹に爽やかな感じすらする映画。


Trailer


2015年に観た映画一覧

番号 邦題 原題 監督 評価
3 ジミー、野をかける伝説 Jimmy’s Hall Ken Loach 3.5
2 シン・シティ 復讐の女神 Sin City: A Dame to Kill For Robert Rodriguez, Frank Miller 3.5
1 毛皮のヴィーナス Venus in Fur Roman Polanski 4
タイトルとURLをコピーしました