映画レビュー
第2次世界大戦中、イギリスがドイツの空襲を受けていた時期に国威高揚の映画制作をする人たちが主人公。ロンドンが空爆やロケット弾の攻撃を受けたことは知っていたが、その被害の規模までは知識がなかったので映画の中での空襲や地下鉄を防空壕としているシーン、登場人物が亡くなったり、事務所の隣の建物が破壊されたりするところを見て思っていたより被害が大きかったことを改めて知った。Wikipediaによると、13,000人以上の民間人が亡くなり、その半分がロンドン市民だったという。
主役のカトリンは秘書だったが、招集で人手不足となったことで脚本チームに入り、そこで才能を認められてという役柄。ジェマ・アータートンが素人からスタートしてプロフェッショナルな脚本家になっていくところを良く演じている。戦時中で画家志望で経済力のない夫を持つ身で、なにかの折に瞬間、ふっと疲れた表情を見せるところが良い。
それに比べると、相手役のサム・クラフリンは悪くはないがやや影が薄い。持ち味を一番発揮していたのは言うまでもなくビル・ナイ。役柄は盛りを過ぎた名俳優というところで、劇中劇に出演を要請されるのは途中で死んでしまう端役。ところが制作過程で軍や当局から横ヤリが入ったりして脚本に手が加えられる毎に少しずつ目立つ役になっていき、撮影する時にはヒロイックな主要人物にまで成り上がる。
この劇中劇はダンケルクに取り残された将兵をイギリスの民間人が船を出して救出した史実に基づく映画で、ちょうど2ヶ月ほど前に見た映画「ダンケルク」ともろ重なる。お陰でダンケルクの背景が分かっていたので良かったが、イギリス人にとっては「ダンケルク」が何かを説明する必要がないくらい誰でもが知っている歴史であることを改めて感じた。
当時の戦況からすると、イギリスはアメリカをヨーロッパ戦線へ引き込む必要があり、この劇中劇の映画も利用される。そのために追加の出演者として押し付けられたアメリカ人がとんでもない大根だったりとかコメディの要素も盛り込まれている。
アメリカ映画でコメディタッチのロマンス物を作ったとしたら、ラスト近くで主役の2人の気持ちが行き違ったあと、よりを戻してハッピーエンドとなるところ。ところが、イギリス映画で作ると最後にもう一捻り入れて違う結末にしてしまう。この脚本に、ビル・ナイなどの英国紳士風のフレーバーが加わってアメリカ映画とは一線を画すものになっている。
映画の原作は、「Their Finest Hour and a Half」。これを切り詰めて「Their Finest」を映画のタイトルとしたのは、出演者が輝いていた1時間半の映画だけでなく、戦時中ドイツの攻撃に晒されながらも精一杯生きた人たちへのノスタルジーが込められているのかなと思った。そう考えると、この邦題はちょっと軽すぎる。
予告編
2017年に観た映画
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