今日の映画 – ソング・オブ・ラホール（Song of Lahore）

パキスタンの伝統音楽を演奏するグループの異色の音楽ドキュメンタリー。

ラホールはパキスタン中部、インドとの国境に近いところにある都市。ここにはムガル帝国の首都が置かれたこともあり、イスラム芸術が栄えた町だったらしい。映画の前半では、この町のミュージシャンが順番に登場し、それぞれの背景を語りだす。演奏する楽器はパキスタンの伝統楽器であったり、西洋音楽から取り入れたバイオリンのような楽器だったりする。ここで分かってくるのは、この国では演奏家というのは代々受け継ぐ家業であること。そして、元々ヒンズー教のものであったカースト制度がイスラムの国パキスタンでも残っていて音楽演奏家のカーストは高くないこと。

しかし、そんなこと以上に彼らを苦境に立たせているのは、1970年代から始まるパキスタン政府のイスラム化によって音楽活動が制限されるようになったこと。さらに1990年代になって歌舞音曲を否定するタリバンの台頭で音楽家が仕事を奪われていったこと。映画に登場する演奏家も大半は老人で、なんとか受け継いできた演奏技術を次の世代へ伝えたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。

そういう厳しい環境の下、タクシーの運転手やレストランの従業員をやりながら音楽活動を続ける場が2004年にラホールに作られた「サッチャル・スタジオ」。ここに集まった音楽家でオーケストラを編成する。ここで苦境を脱するためにジャズを演奏しようということになり、名曲「テイク・ファイヴ」を伝統楽器で演奏したものをYou Tubeへアップすると人づてに有名になり、「ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ」のウィントン・マルサリスが一同をアメリカへ招待することになる。

映画の後半はニューヨークへのツアーの顛末。リーダーは直前に亡くなった父親の後を継いで編曲と指揮を担当するニジャート・アリーがリーダー格。父親の墓参りに行って、受け継いだ責任の重さを感じつつ、その重責に潰されまいと努力する姿は今の日本では見ることはなくなってしまったもの。

ニューヨークでマルサリスのオーケストラと共演するために、出発前に練習して楽譜まで用意していたのに、いざ行ってみるとなかなかマルサリス側と合わせることが出来ずいきなりピンチ。特に、シタール奏者の若者の技量が足りなかったのか、2日目に脱落。シタールの特徴的な音色を失ってしまうのは大打撃。

この難局で最初に適応したのはバーンスリーという横笛吹きのおじさん。このテクニックは素人目にも凄くて、アメリカ側のフルート吹きとのアドリブでのタイマン勝負は感動モノ。続いて、太鼓の親子も感じを掴んで入り込んでいく。そのうえ、ニューヨークで発見したシタール奏者にテイク・ファイヴを一夜漬けで練習させて本番に間に合わせてみせる。本番では、パキスタンチームに負けじとアメリカ側もノリノリでめちゃくちゃええ感じ。

サッチャル・ジャズ・アンサンブルは9月の東京JAZZで初来日していたのを知ったのは終わってから。機会があれば生で聞いてみたい。

Trailer

2016年に観た映画