映画レビュー
カリフォルニア州サクラメントを舞台に、高校3年生の自称「レディ・バード」の1年間を描いた映画。
冒頭の主人公レディ・バード(シアーシャ・ローナン)が母親(ローリー・メトカーフ)が運転する車の助手席に座っているシーンが数分間続く。ここでの会話で、母親が娘に対して過剰に干渉していること、娘はそれに対して反発しているが、自分の将来に確固たるイメージを持っていないこと、興味本位でいろいろ手を出すが達成できずに中途半端であるようなことなど、自然にすっと入ってくるところで脚本がよくできていると思った。
この母娘、背格好は同じくらいでヘアスタイルも似ている。車の座席に並んで座ると、若くて元気な高校生と生活に疲れたその数十年後の姿を見ているようで時間の残酷さを見せられているようにも思う。17歳の役を演じたローナンの実年齢は撮影当時23歳だが見た目は高校生、2年前の「ブルックリン」よりも若く見えるくらい。ブルックリンのときも思ったが、首が長い。一方のメトカーフは62歳だったので40代に見えていたということは充分若い。
ストーリーの骨子はこの母娘の対立と和解。父親がリストラされて、長男も喫茶店でのバイトをしながら職探しという一家を看護婦をしながら支えている母親は、娘に対してかなりキツイ。経済的に厳しいので財布の紐は堅いが、プロムなど学校のイベントのための服などはすんなりと買ってやるし。デートの前にミシンで服を直してやったり、ちょっとしたシーンでうるさいだけの母親でないところをさりげなく見せる。
娘が通う高校はカトリック系だが、一家がカトリックには全然見えない。一方で、神父やシスターが出てくるカトリック系の高校というのも物珍しくて面白い。母親が中絶しなかったお蔭で今の自分が居るという先生に対して、レディ・バードが「中絶していれば、このくだらない授業を受けずに済んだ」と言って停学になるとか、アメフトのコーチにミュージカルの舞台演出をさせるとアメフトのフォーメーションさながらに組み立てるところなど、押えるポイントでユーモアを効かせている。
出演者に関しては、総じて女性が活発で存在感あり。レディ・バードが付き合う同級生に、今売り出し中のルーカス・ヘッジズとティモシー・シャラメを持ってくる贅沢なキャスティングだが、役としては影が薄い。逆に父親役のトレイシー・レッツがいい味を出していた。
映画は淡々と進んで、ここがクライマックスという場面はないが、グレタ・ガーウィグ初の単独監督作品とは思えないくらい、セリフの密度、話の進み具合が自然で見ていて疲れず飽きない。時代設定は40年違うが、映画全体の印象からアメリカン・グラフィティを連想した。
予告編
2018年に観た映画
2018年版「今日の映画」のリストはこちら。