映画レビュー
戦争映画と知りつつ、予備知識なしに映画館へ行って、「Hacksaw Ridge(弓のこ尾根)」というのはヨーロッパの山岳地帯の戦場かなくらいに思っていたら、沖縄の前田高地でした。場所は沖縄の南部、首里の北側。
映画の前半は主人公デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)が生まれ育った育ったバージニアと志願して入隊したあとの訓練など。配属された部隊がそのまま沖縄の戦地に投入されることになるが、最初に営舎に入った時に10人くらいの戦友になる仲間と顔合わせすることになるが、いっぺんに出されても顔と名前を覚えられへん。
話がややこしくなるのは、デズモンドが宗教的理由からの良心的兵役拒否者で武器は持たないと決めているのに、戦闘のない後方支援ではなく危険な前線に行きたいという変わり者だったこと。このため、軍関係者は取り扱いに困って軍法会議にかけようとまでする。
デズモンドの父親のトムを演ったヒューゴ・ウィービングは、「マトリックス」のエージェント・スミスや「ホビット」シリーズのエルフの王様のイメージがつきまとう。第一次世界大戦での伍長で退役して、その後PTSDで良い父親ではなかったが、デズモンドを支えて軍に残れるように奔走するところで男気を見せる。
後半は沖縄前田高地(ハクソー・リッジ)での戦闘が続く。戦争映画でもコンピュータによる特撮が使われるようになって、いきなり撃たれて死んでしまう場面とか、爆発で脚がずたずたになってしまう映像とか、かなりリアル。戦争映画として観ると戦闘シーンの部分はよく出来ていると思う。しかし、ハクソー・リッジの戦いだけを見れば、物量で日本軍を圧倒していた米軍の沖縄上陸後の掃討戦なのに犠牲が大きすぎて戦術的に失敗した例かなと思う。
それ以上に、デズモンドの行動を見ていると戦争映画というより宗教映画を見ているような気分になってくる。キリストが亡くなるまでの12時間を映画にした「パッション」を撮った監督のメル・ギブソンは熱心なカトリック教徒として知られていて、宗派は違ってもデズモンドの良心的兵役拒否というか宗教的兵役拒否を撮りたかったのかもしれない。
また、メル・ギブソンは10年ほど前に反ユダヤ的な差別発言をして問題を起こしている。となると、映画での日本人の描かれ方が気になるが、観た限りでは意図して日本軍が野蛮な風には見せていない。日本兵が白旗を上げて降伏したふりをして自爆しようとするところや、司令官が切腹、斬首されるシーンはどうかと思うが、まあ演出の範囲内と思う。
しかし、映画自体がアメリカの視点から作られたものなので、デズモンド以外の米兵にも名前と個人のキャラクターがあるのに対して、日本軍は個々の人物描写はなく集団として襲い掛かってきて死んでいくという描かれ方。これをアメリカ人が観たら日本人は不気味と思うかもしれない。クリント・イーストウッドが撮った「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」のような日米双方からの視点は望むべくもないが、日本人として観ると微妙ではある。
アンドリュー・ガーフィールドはスパイダーマンの後、「沈黙」のロドリゴ神父役が良かったが、この映画でも信心深さを通り越してちょっと変人ぽいところがなんかキャラに会ってる。受賞は逃したが、この映画でアカデミー主演男優賞にノミネートされるまでになったのは立派。
アンドリュー・ガーフィールド、ヒューゴ・ウィービング以外の主な出演者、サム・ワーシントン、ルーク・ブレイシー、テリーサ・パーマー、レイチェル・グリフィスは全員オーストラリアの俳優。これはメル・ギブソンの人脈か?
予告編
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