今日の映画 – エル ELLE(Elle)

エル ELLEのポスター

映画レビュー

予告編を観ていたので、サスペンス物だと思って映画館へ行った。たしかに、冒頭で主人公の女社長ミシェル(イザベル・ユペール)が自宅でレイプされて、その犯人が入ってくるところの扉の掴み方がドキッとさせる。この調子でこの先何が起こるか分からないドキドキ映画かなと思ったところ …. 全然、違った。

犯人が帰っていったら、この女社長、割れた花瓶とかを掃除して何事もなかったように泰然としてる。しかも、数日後、別れた旦那、共同経営者夫婦と食事している際に、レイプされたこと、警察に届けていないことを平然と話して、えらい堂々としてる。

それでいて結構シュールで、護身用の唐辛子スプレーを買うときに追加で斧を買う。ところが、観ていてミシェルが危ない目に会うのではないかと心配する気が全く起こらない。半分くらい進んだところで、どうやらこの映画はサスペンス物ではないと分かってきた。

この映画に出てくる男どもは、ミシェルの別れた旦那は売れない作家でミシェルの会社が作るゲームソフトのシナリオに参加したいと思っているがその才能が無い。ミシェルの共同経営者の旦那はミシェルと浮気しているがバレて嫁さんに放り出される。ミシェルの母親の若いツバメは母親が急死したあとでもアパートに居座ろうとする。ミシェルの30くらいの息子は、生活能力が無く、ガールフレンドが産んだ赤ん坊の肌の色が黒いのに事実を認めず尻に敷かれっぱなし。かつて大量殺人を犯して服役中の父親はミシェルが面会に来ると聞いて前日に自殺してしまう。そして、レイプ犯人は自分が倒錯者であることをうまく隠しているつもりだったが・・・。要は、この映画に出てくる男は全員、下衆で、頭が悪くで、どうしょうもない連中ばかり。

それに比べて、女性陣は圧倒的な強さを見せるミシェルを筆頭に、ツバメ飼いのお母ちゃん、浮気旦那を蹴り出す共同経営者、父親が誰か分からん子供を産みながらミシェルの息子を顎で使う嫁、近所の宗教狂いの女も旦那がおかしいことを知りつつ泳がしていた風。とにかく、強くて、賢くて、格好良い。

この映画は、男を徹底的にこき下ろして女を賛美するのを一捻りしてサスペンス風にしただけで、見ようによってはコメディやないかという気がしてくる。だが、ミシェルの想定以上の強さ、特にレイプ犯にきっちりと落とし前を付けてサラッとしているところとか、父親の大量殺人に関与していたのではと匂わせるところで、途方もないダークネスを抱えているのではと思わせて答えがないところがうまい。

で、映画を観終わってから、監督がポール・バーホーベンであることに気がついた。このオランダ人監督は、「ロボコップ」、「トータル・リコール」、「氷の微笑」、「スターシップ・トゥルーパーズ」なんかを撮っている人。

ポール・バーホーベンは、ミシェル役にニコール・キッドマン、ダイアン・レイン、シャロン・ストーン、ジュリアン・ムーア、マリオン・コティヤール、シャーリーズ・セロン、カリス・ファン・ハウテンなんかを想定していたそうであるが、皆尻込みしてイザベル・ユペールに廻ってきたという。イザベル・ユペールはこの役を熱演して初めてアカデミー賞にノミネートされた。御年60を超えているのに、カメラの角度では40代くらいに見えるのはすごい。

予告編

2017年に観た映画

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