映画レビュー
この映画の監督エドガー・ライトはイギリス人で、過去の作品は「アントマン」の脚本を除けば、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」、「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」などメインストリームを外れたようなものばかりで、敢えて観に行こうとおもわないようなのが多かったし、実際観ていない。そんな訳で、この映画にもさほど期待せずに映画館へ行ったが、これが大当たり。
まず冒頭の車で銀行へ乗り付けて強盗、パトカーとカーチェイスして逃走という約5分のシーンでぐっと引き込まれる。この間に流れるのは「ベルボトムス」という曲で後半のカーチェイスでは、映像はもとより、タイヤのきしむ音、パトカーのサイレンなどのノイズまでも音楽とシンクロして予期せぬ一体感を作っている。
ちなみに、このカーアクションで使われているのはスバルのWRX。この車はフルタイム4WDだが、撮影用に用意されたうち数台は後輪駆動に改造されたものという。バックからスピンターンするところとか、クルマ好きにはたまらん見せ場が多い。
無事逃げおおせた後、逃走運転手で主人公のベイビー(アンセル・エルゴート)が皆の分のコーヒーを買い出しに行くシーンがあるが、ここでも「ハーレム・シャッフル」に合わせてステップを踏むリズミカルな動き。この映画で使われる音楽はベイビーの旧型のiPodで再生されてイヤフォンから聞こえている音楽そのものということ。
音楽と映像とのシンクロは、例えば武器を調達に行って銃撃戦になるシーンではバックに「テキーラ」が流れて、そのドラムのビートと拳銃の発砲音が重なるという具合でかなりマニアック。音楽の選択もロック、ソウル、ジャズと幅広い。そして最後のエンドロールが流れるところでは、期待通りサイモンとガーファンクルの「ベイビー・ドライバー」が掛かる。
音楽と映像に凝っただけでなく、映画自体はクライム・サスペンス、ラブ・ストーリー、カーアクションを上手にミックスした作りで娯楽映画としての完成度は高い。また、出演者のキャスティングがよい。
アンセル・エルゴートにとって、ベイビーははまり役。まだ23歳でこれまでの出演作も少ないので、これからどうかというところ。
相方のリリー・ジェームズはドラマ「ダウントン・アビー」のローズ役でブレイクして「シンデレラ」で抜擢された有望株。出演作は少ないが、「高慢と偏見」のパロディ映画「高慢と偏見とゾンビ」に主演するなどちょっと変なところが良い感じ。この映画を踏み台に、さらに良い役をつかめばスターの仲間入りも夢ではなさそう。
バッツ役のジェイミー・フォックスはちょっとサイコ掛かった役を楽しみながら演っているような余裕の演技。他の犯罪者が見た目ちゃんとした人たちなので、彼が居ることでの緊張感やダークな感じが映画を引き締めている。
バディ役のジョン・ハムもドラマ出身で「MAD MEN マッドメン」のドン・ドレイパー役でブレイクした人。見た目が良いし、働き盛りの40代半ばなのでもっと売れてもよい俳優。この映画では、ベイビーの良き理解者だったのが、あることを堺に執拗な追跡者になる2面性を持った役で存在感を見せた。
ダーリン役のエイザ・ゴンザレスはメキシコの歌手、女優。ジョン・ハムと組んでボニー・アンド・クライド風に機関銃を持って撃ちまくるのは格好良いがメインにクレジットされている6人の中では華を添える脇役というところ。
ベテランのケビン・スペイシーは、近年は映画でこれという役がなく、ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で大統領に上り詰めるの悪徳政治家のイメージが強い。なので、この映画での犯罪者の元締めドク役もイメージ通りといったところ。
他にもカメオ出演しているのは、監督のウォルター・ヒル、ラッパーのビッグ・ボーイとキラー・マイク、ロックミュージシャンのジョン・スペンサーなど。多少セリフを喋るチョイ役では、ポール・ウイリアムズ、フリーが出ているし、ベイビーの回想シーンで出てくる母親はシンガーのスカイ・フェレイラが演っている。
ストーリー、映像、音楽、カー・アクション、キャスティング、それぞれのレベルが高く、かつ全体として文句の付け所がないくらいちゃんとまとまっている映画。
予告編
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