映画レビュー
1973年に起きた億万長者ジャン・ポール・ゲティの孫、ジャン・ポール・ゲティ三世の誘拐事件の事実にフィクションを加えて作られた映画。
公開前に話題になったのは映画の内容ではなく主演男優の交代。元々ジャン・ポール・ゲティ役をドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」などで売れていたケビン・スペイシーで全編撮り終えていて、1ヶ月半先のクリスマスシーズンでの公開を待つばかりだった。そこで起こったのがケビン・スペイシーのセクハラ疑惑。本人の対応のまずさから炎上してスペイシーは事実上映画、ドラマから追放となった。
それからの製作者と監督の判断が迅速で、
- ケビン・スペイシーでの撮影隅シーンを代役クリストファー・プラマーで撮り直し。
- 再撮影を9日で完了。
- 追加撮影費用は1,000万ドル。
という離れ業で12月25日の公開に間に合わせたということが報道された。
結果的にこの主役交代は良かったと思う。ゲティが亡くなったのが83歳。ケビン・スペイシーは今年58歳でフケメイクをしても脂ぎったところが出ていたのではないだろうか。一方のクリストファー・プラマーは今年88歳で年相応に枯れているので、地で行けたと思う。
映画は、リドリー・スコット監督らしく、かっちりとした構成で作られている。そこにゲティ役のクリストファー・プラマー、息子の元嫁で誘拐された孫の母親アビゲイル役のミシェル・ウィリアムズ、ゲティに雇われてアビゲイルと共に誘拐された孫を救出しようとする元CIAのチェイスを演じるマーク・ウォールバーグの3人が堅い演技をしているので出来栄えは約束されたようなもの。
しかし、なぜリドリー・スコットはこの映画を作ろうとしたのだろうか? 当時世界一の金持ちで、かつケチだったというジャン・ポール・ゲティは変な人間ではあるが、世の中の多くの人が関心を持っているとも思えない。孫の誘拐事件も今更掘り返す類の事件ではないだろう。とすると、息子を誘拐された母親アビゲイルの頑張が見せ所なのか?
事実に基づいた映画は往々にして退屈な内容になってしまうことがあるが、この映画では事実に基いてフィクションを加えているという但し書き付き。具体的には、人質の孫が犯人から開放されてガソリンスタンドで見つかったというのが事実で、解放後に再度命を狙われて逃げ回るというのはフィクション。これを加えたことでサスペンスとして引き締まったのは監督の手際と言えるが、そこまでして作る映画ネタだったのだろうかという疑問は残る。
予告編
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