映画レビュー
カンヌ国際映画グランプリ受賞のフランス映画。最近のアメリカ映画は冒頭にクレジットがなくいきなり始まるのが多い。この映画のようにクレジットが流れて、それにオーバーラップして映像と音声が始まるのを見ると妙に懐かしく感じる。
映画の舞台はHIVの進行を止める薬が開発される前の1990年代のパリ。HIV対策に後手を踏んでいる政府や製薬会社への抗議活動や感染拡大を防ぐための啓蒙活動を行っている「ACT UP-Paris」という団体とそのメンバーの話。
HIV/エイズを題材にした映画、例えば「ダラス・バイヤーズ・クラブ」などに共通するのは感染者に残された時間が限られていて、死へのタイマーが動き続けていること。こういう映画は、戦争映画で多くの人が死んでいくのと違った形で観ている側の気を滅入らせる。
この映画では、前半は割と明るい。ACT UP-Parisのメンバーの大半はHIV感染者だが、会議では積極的に討論し、ときにはユーモアもある。だが、主要メンバーのショーン(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)の病状が進行する後半はかなり痛々しい。
ACT UP-Parisのミーティングが何度も出てくるが、強硬派と穏健派、意見の対立があってもちゃんとルールを決めて議論しているところ、また、一旦議論が終われば、力を合わせて外部に対して強く働きかけていることが印象に残った。日本のことを振り返ってみると、薬害エイズ問題で政府と製薬会社が糾弾されたことは似ているが、一般市民がここまで強いメッセージ発信できたかどうかを考えると、良し悪しではなく国民性の違いみたいなのを感じざるを得ない。
脚本はかなりしっかりしている。例えばACT UP-Parisの議論も強硬派対穏健派という単純な構図にしてしまわず、活動の効果・効率を優先するリーダーのチボー(アントワン・ライナルツ)と、活動の本質がぶれないようにするために敢えてメンバーの女性を批判するショーンとの立ち位置の違いを見せるなど、登場人物の個性が浮き上がる工夫が凝らされている。
ビート・パー・ミニットは1分間の鼓動、すなわち心拍数。普通は60前後くらいなので、原題の「120」というのは、「普通の人たちの倍くらいの密度で生きた人たち」を意味しているのだろうか? 観終わって良い映画と思うが、もう一度観たいかとなると、う~ん。
予告編
2018年に観た映画
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