映画レビュー
この映画で4回目の映画化ということは、既にスターの地位にいるおっさんが才能を持った売れない新人の女の子を発見してスターダムへ駆け上がる支援をして恋仲になるが、おっさんは没落するという筋書きは時代にかかわらず受け入れられるらしい。
過去の映画化は最初が1937年のジャネット・ゲイナー主演、そのリメイクが1954年のジュディー・ガーランド主演、さらに1976年のバーブラ・ストライサンド主演と続き、今回の映画となる。最初の2つがハリウッドを舞台にした映画スターになる話だったのが、バーブラ・ストライサンド版では歌手に置き換えられ、今回もそれを踏襲している。
各主演女優の出演時の年齢は、ジュディー・ガーランドが32歳、バーブラ・ストライサンドが34歳、レディ・ガガが32歳。ジュディー・ガーランドは既に薬物中毒などでヘタっていたところからのカムバックではあるが、既に歌手として名声を確立して油の乗り切った時期の出演。ジュディー・ガーランドが売れない女優時期を可憐に演じていたのに対して、バーブラ・ストライサンドは出てきたときからスター然としていることを批判されていた。それがあってか、この映画でのアリーを演じるレディ・ガガは最初はすっぴんで衣装も程々で初々しさを出すように気を使っていた風。とはいえ、自作の曲「Shallow」をブラッドリー・クーパー演じる相方のジャクソンが勝手に編曲して、それを演奏を始めた舞台へリハーサルも無しで引っ張り出されての歌いっぷりはオーラ出しまくりやったけど。
サウンドトラックに収められている曲の大半を作詞作曲し、自ら歌うガガはアーティストとしての才能を見せつけるが、本業でない女優としてもごく自然な演技でアカデミー主演女優賞にノミネートされても違和感ない。しかし、本業でないところで頑張りを見せていたのはブラッドリー・クーパー。ロックスターとしての演技だけでなく、映画中で歌うところは吹き替えではなく撮影時に録音した生声を使っている。しかも、レディ・ガガを相手に歌って負けてないのが凄い。そのうえ、この映画で初監督もこなしているのだから恐れ入る。
この映画でのレディ・ガガについては既に多くが語られているので今更どうこういうことはないが、映画の中でアリーが売れ始めたときにプロデューサーの指示でバックダンサー付きの踊りが加えられ、髪を派手に染め、曲もロックからポップ調へと変わっていくのをジャクソンが批判して喧嘩になるシーンがある。この部分をどう解釈すればよいのだろうか? 過度に商業化されたショウ・ビジネスを批判しているのか、あるいはピュア・ロックに拘るジャクソンを時代遅れと見せているのだろうか? リアル世界でのガガの成功を考えると前者は考えにくいし、後者も話の流れとしっくりこない。いずれにせよ、ガガはやっぱり上手い。「Why Did You Do That?」のような本業そのままのような曲だけでなく、ラストの「I’ll Never Love Again」のようなしっとり歌う曲も聴かせる。
ストーリーに関してはバーブラ・ストライサンド版とほぼ同じだが、ロックスターとしていったん上り詰めたら、アル中になっても過去の遺産でなんとかやっていけそうなものなのに簡単に凋落してしまう不自然さを前作では感じた。この映画では、ジャクソンが聴覚に障害を持っていて症状が進行しているという設定を付け加えることで違和感を抑えている。さらに、前作でクリス・クリストファーソンの存在感がいまいちだったが、この映画では、ジャクソンの兄を登場させることで、兄弟や亡くなった父親との関係からジャクソンの人間性を見せる工夫をしている。
間もなくアカデミー賞の選考が始まるが、複数受賞の可能性が高いと思う。できれば、ブラッドリー・クーパーに受賞してもらいたい。
予告編
2019年に観た映画
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