今日の映画 – ビューティフル・デイ(You Were Never Really Here)

You Were Never Really Here

映画レビュー

予告編で血が飛び散る映画であること、ホアキン・フェニックスがホームセンターみたいなところで殺人用にハンマーを買ってそれを振り回すことが分かっていたので、映画館へ行く前から予想される凄惨な殺陣シーンに少々びびった。が、観てみるとそれほどひどくない。フェニックスは10人くらい殺すけど、拳銃を使う2人と格闘で殺る1人以外は全部ハンマーを使うが監視カメラ経由の映像だったり、すでに殺した死体を見せるだけとか、アップでグロテスクなシーンを見せられることはない。それどころか、不自然なくらい返り血を浴びていない。血が流れるシーンは多くてジョーことホアキン・フェニックスもかなり血を流すが、バイオレンス物としては予想の範囲。

ホアキン・フェニックスが饒舌に喋りまくるのは想像しにくいが、この映画のジョーも寡黙でセリフの少ない役。ジョーの過去についての言葉での説明は母親との会話で20年前に付き合っていた女性がいたことくらい。それ以外の過去は言葉ではなく、かつては軍人だったこと、チョコレートをあげた子供がチョコレートを持っていただけの理由で他の子供にあっさり殺されるような過酷な戦地へ送られていたこと、子供時代におそらく親に虐待されていたことなどをところどころに挿入された映像で見せる。その結果として、今でもPTSDで苦しんでいて、薬物依存もあるようだということが分かってくる。

映画はシンシナティで一仕事終えたジョーが痴呆が出始めた母親が一人待つニューヨークの自宅に戻り、次の仕事を請け負うことで行方不明の子供を見つけて荒っぽい方法で連れ帰ることを稼業にしていることがなんとなく分かる。PTSDの元軍人がやくざな仕事をしているだけなら割と普通だが、映画サイコを見て眠れないという母親の枕元に付いていてやったり、水を溢れさせた洗面書の床を掃除したりする優しい一面を見せるところでフェニックスは上手いと思う。

殺された母親を池に沈めて葬るところはジョーがいちばんちゃんとした格好をしていて、そのまま池へ入っていくが、水中のシーンはシェイプ・オブ・ウォーターを思わせる。映画を通して、映像はきれいだが、昼間のシーンよりも夜の暗闇が良い。

映画は2つ目の仕事で少女ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を救出したあとで急展開、サスペンス映画になる。更に多くの人が殺されるが、ジョーが自宅で母親を殺したエージェントに瀕死の重傷を負わせ、その横に並んで寝転がって2人で歌を唄うところが変ではあるが、かなりいい感じ。

ニーナを救出に行った先でも意外な結末が待っている。そこでジョーが精神的にかなり参ってシャツを脱いで上半身裸になるのは意味不明。軍人時代の傷跡はいいけど、見ていてあまり美しくないのでどうかなと思う。

ジョーがニーナを発見したときに、ニーナがジョーに「大丈夫」と言うが、「I’m Okey.」ではなく「It’s Okey.」と言っている。大丈夫の意味は、自分が大丈夫ということではなく、今の状況が大丈夫という意味。そう考えると少女のニーナは意外と大人っぽく現実を受け入れていて、それがラストシーンでの「It’s a beautiful day.」に繋がるような気がする。それが、普通に考えれば絶望的な将来が待つ2人にとって、もしかしたら何か希望があるかもしれないと思わせる。

予告編

2018年に観た映画

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