映画レビュー
カンヌ国際映画祭で脚本賞受賞、ニコール・キッドマン、コリン・ファレル主演ということで、劇場公開日の最終日の最終回に観に行った。結論から言うと、主要な俳優、キッドマン、ファレル、そしてバリー・コーガンは良かったが脚本はビミョウ。
スリラー/サスペンス物は、映画の中で逐一筋を説明する必要はないが、観ている側が推測と想像で不足部分を補って物語を紡ぐことができるだけの最低限の論理性を持つべきだというのが持論。もちろん、これに該当しない映画もあって構わないが、その場合は論理なんかを超越してぶっ飛んだ内容の映画でなければならない。
この観点からすると、この映画は残念ながら前者でも後者でもない。映画の冒頭の心臓手術のシーンの気味悪いところとか、ファレルとコーガンのなぜか不安を掻き立てるセリフ棒読みのような会話とか、コーガンの見た目と行動の不気味なところとか、良い部分はあるのに子どもたちの原因不明の病気とコーガンとの関係がしっくりこないまま映画が終わってしまった感じ。例えば、コーガンをはっきりと超能力者ということにしてしまえば、それなりに納得できたかもしれない。
大筋で納得できないと、それ以外のところも気になるもので、前半から中盤にかけての不安を増長するような音楽の使い方もあざとさを感じてしまう。最後の家族でロシアンルーレットみたいなことをするところでは失笑してしまった。最終的には好みの問題かもしれないが、この映画には、今ひとつ入り込めなかった。
監督はギリシャ人のヨルゴス・ランティモス。この映画も「アウリスのイピゲネイア」というギリシャ悲劇を下敷きにしているとのこと。この悲劇はトロイ戦争の際にギリシャの大将アガメムノンが娘のイピゲネイアを生贄にする話。劇の最後にイピゲネイアが生贄の鹿と入れ替わるうんぬんという部分があるのが、この映画に鹿が出ないのにタイトルに鹿が入っている理由だと思われる。なので、「Sacred」は「聖なる」ではなく「生贄の」と訳すべきだと思う。
予告編
2018年に観た映画
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