映画レビュー
『ゴーン・ベイビー・ゴーン』、『ミスティック・リバー』、『シャッター アイランド』の原作者デニス・ルヘインの小説の映画化。映画化権はレオナルド・ディカプリオが持っていたが自らは製作に退き、ベン・アフレックが、監督・脚本・主演の3役をこなしている。
映画を観る前に原作を読んだが、このデニス・ルヘインという作家は文章が大変上手で読んでいてもぐいぐい引き込まれる。もちろん小説の構成がかっちりしていることは言うまでもない。なので、映画を観るにあたっての興味の一つは、ベン・アフレックがこの原作をどう料理するかというところ。
結論から言うと、映画化は原作に比較的忠実で、小説の雰囲気をよく映画に取り込んでいると思う。もっとも、全てを映画の時間枠に取り込むことは不可能なので、刑務所に入所中のできごと、米国軍隊の武器を盗むところなどがカットされている。そのため、登場人物の人格の掘り込みや主人公ジョー(ベン・アフレック)との関係の描写が今ひとつという感は否めない。それだけ端折ったにも関わらず、特に映画の前半はセリフの連続でいささか詰め込んだという感じがする。予備知識なしに観るとストーリーを追うのに大変かもしれない。
小説を読んでから映画を観ることのメリットは、活字から読み取って自分で作ったイメージと映画の映像とを比較する楽しみがあること。映画ならではと思った箇所は、前半の警察とのカーチェイスのシーン、ボストンの街中やパーティ会場の風景、後半のタンパやキューバの町の風景、そして原作にはなかったが雄大な自然の風景など。
同様に、主要人物も小説からのイメージと映画のキャストや演技との一致、不一致が当然ある。主人公のジョー(ベン・アフレック)、相棒のディオン(クリス・メッシーナ)は抱いていたイメージに近い。主要な女性3人のうち、グラシエラ(ゾーイ・サルダナ)、ロレッタ(エル・ファニング)は良いが、エマ(シエナ・ミラー)はちょっと厳しい。エマ役は歳は若いのに死んだ(と思われた)後もずっとジョー、ホワイト2人を虜にし続けるくらいの魅力の持ち主ということになっているので適役といえる人はいないかもしれない。
ベン・アフレックは、「ゴーン・ガール」でロザムンド・パイクにやられっぱなしのダメダメ亭主のイメージが付いてしまったが、その後バットマンへ「そう来るか!」と唸らせる転身を果たしたが、根はイケてない男。なので、アイリッシュ系の垢抜けないギャングというこのジョーの役は適役。
ゾーイ・サルダナはSFでの青や緑の皮膚をしたエイリアン役しか印象に残っていない気の毒な女優だが、この映画では人間の役。良い感じではあるが、登場時間が少なくてグランシエラの性格を出すところまでは行かなかった。
エル・ファニングも画面に出ている時間は長くないが、特異な役なので演技を見せるポイントはいくつもあってかなり良い。まだ19歳なので今後が楽しみ。
原作は一級品、出演者のキャスティングも悪くない、監督・脚本のベン・アフレックも頑張っている。なのに、あと一息という感じがする。この原作を2時間枠に入れようとすること自体無理があったのではないだろうか? 思い切って3時間枠で主要人物、特に女性の人格描写に時間を充てれば名作に成れたかもしれない。
予告編
2017年に観た映画
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